4.
伴奏に合わせて軽快にステップを踏むが、実は心臓はかなりドキドキしてたりする。
男として踊るリドは先生と同じ方向を向いているから顔が見えないが、俺は少し向きを変えるだけで顔が見えてしまいそうだ。
セロを弾くクウォーツ先輩の前を通り過ぎる瞬間、アスティアーニ先生に気付いた先輩が少し笑ったのが見えた。
(笑い事じゃなくて…!)
だが、とても楽しい。
ドキドキして気分が高揚する。
ここでバレたらどうなるんだろう。女装姿を晒すことになるが、リドとの関係も露呈する。それはそれでいいかもしれない。
海軍が俺を諦めて、もしかしたら俺にも懸賞金がかけられたりして。…それで、他の道はなくなって彼と一緒に生きていく。
(…悪くないな)
それも幸せそうだ。
だなんて考えるあたり頭がおかしい。
俺はリドと生きていく覚悟をした。海賊だろうと、共に明日に進む道を選んだ。
だったらリスクは避けるべきだ。リドとの関係なんて秘密でいいし、屋敷から逃げ切るのも難しい今バレるわけにはいかない。
なのに、そう考えた俺は、
(こいつの自由さに感化されたな)
もしバレても俺達なら逃げ切れる。
そう言い切ることができた根拠はなんだったんだろうか。分からないが、今はこのスリルを甘んじて楽しもうと思った。
挑発的にリドを見上げて微笑む。そうすれば、鮮やかな翠緑が見開かれたのが見えた。
「ロー?」
驚いたように俺を呼ぶ声。
それに答えずに一気に踏み込む。通常はないステップで、先生との距離が一気に近付く。
そして、クルリと回ってリドと先生が向かい合うようにしてやった。固まる表情にいい気味だと笑うのを我慢するので必死だ。
「お前なぁ…!」
先生に気付いた様子はない。
もっと近付いてやろうかとも思ったが、グイッと腰を引かれたことによって距離はまた開いてしまった。リドが鼻を鳴らした。
そして、やはり野生の豹を思わせるような獰猛な表情でニヤリと笑った。
「うちのお嬢さんはスリルがお好きか」
とても嫌な予感がした。
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