3.
重ねあった手の温度。
大きくて硬い手が握ってくるもんだから、俺も握り返せばリドが笑った。
そのまま手を取り合ってホールの真ん中まで移動して、互いを見詰め合う。何故かは知らないが、踊る人は少なかった。
次の曲は知っているもので、テンポだって充分に把握している。少し速め、だが、優雅な曲だから焦ってはいけない。
片手を軽く重ねて、もう片手はリドの肩に近い腕の部分に添える。リドは嬉しそうに俺の腰に手を添えて、抱き寄せた。
「こら、そんなに抱き寄せるな」
「最初に甘えてきたのはお前だ」
「それは…!」
言葉に詰まる。
その時、予想外のことが起こった。
一人の若くて綺麗な令嬢がアスティアーニ先生を誘い、なんと、アスティアーニ先生は悩んだ後に了承したのだ。ヘンゼルは興味がなさげにケーキをつついている。
その令嬢と先生は、まだ空いているスペースがあるにも関わらず、俺達の隣に来た。
「わお、」
「呑気に驚いてる場合か」
「なぁ、バレたらどうする?」
煌々と煌めくエメラルドの瞳が、臆した様子もなく愉快そうに細まる。
俺は緊張でどうにかなりそうなのに、この黒猫は悪戯でも始めるかのように楽しんでいた。海軍に囲まれたホールの中で。
その肝の据わりように緊張を通り越して呆れさえ浮かぶんだから、仕方がない。
「そこはバレないようにしろよ」
「バレだら、の話だ」
「お前を連れて逃げる」
「っぷは、逃げるってお前に似合わねぇ言葉だな。俺と一緒なのは嬉しいが」
「逃げる以外に何があるんだ?」
「俺はお前達の中佐様を奪ったって、俺の恋人だって、高らかに宣言して驚いた海軍どものツラを見てやりてぇぜ!」
本当に楽しそうに笑う。
そして、冗談はよせ、と言葉が転がり出るより先にダンスの本番の音楽が流れ始めた。手を引かれ、足を踏み出す。
「俺が悪いことをする楽しさってやつを教えてやるよ、ロー」
あぁ、本当に呆れた。
楽しいと既に感じている俺自身に。
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