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共有する秘密と円舞曲


その時、演奏が変わった。

知っている曲で、この曲が終われば円舞曲用の伴奏に変わるとあらかじめ知らされている。談笑に耽っていた人達がざわめく。

ホールの中心はスペースが開けられて、女性を誘うべく男性が動き出した。

「おっと、お姫様、これはやばいぜ?」

とは言っていたが、本当に焦っている様子はなくて、ヘンゼルはこちらを見ている男性に気付くと無視して食べ物を皿に取る。

少女と言ってもダンスには充分誘える年齢だが、幸せそうにスウィーツを食べているところを邪魔して誘うのも難しい。

(あれいいな)

俺も同じ方法で熱く滾った視線から逃れようとしたが、テーブルに近付く直前に、目の前に影が立ちはばかってしまった。

燕尾服を着た若い男性だ。

俺よりいくらか年上のようで、緊張しながら俺を見ていた。舞踏会に慣れていそうなのに、随分と表情が固まっている。

「あ、あの!」

思わず一歩下がってしまった。

それでさらに焦った彼は、俺が断るための言い訳を考えつくより早く言った。

「よろしければ僕と踊ってください」

「っ、」

どうしよう。

どうやって断ろう。

女性のステップが踏めると言っても、ホールの中心で踊ったら目立つ。軍人の中には俺の乗組員だった奴も先生もいるんだ。

こっそりと情報を集めていたいのに、ダンスに誘われるなんて。踊る時に体に触れるから男だとバレる危険性が高いし、それに、

(…リド以外と踊りたくない)

その考え方に俺が一番驚いた。

だが、やはり言葉が思い付かなくて、戸惑っているうちに手が伸ばされる。その上に重ねることを期待されているんだ。

いよいよ困り果てたその時、背後からふわりと爽やかな潮の香りがした。

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