4.
「部外者だから情報源は言わない」
「お、言うようになったじゃねぇか」
「だが、俺達の持ってる情報はお前ら海軍のと大差ないと思うぞ」
「俺達、お前ら海軍、ねぇ…」
意味ありげにヘンゼルが呟く。
無意識に出てきた言葉に俺自身も驚いたが、ヘンゼルは深追いをしなかった。
「ロー、海軍としては何も言えねぇが、友人として餞別に教えてやるよ。優しい優しいヘンゼル様がトクベツに、だ」
ペロリ、と彼の舌が唇を舐める。
「餞別…」
「あぁ。どうせてめぇは海軍に戻れねぇとこまでとっくに堕ちてるだろ?」
再び背中に腕を回される。まだ反応しきれていない俺の耳元で、少女らしさの欠片もない低い声が楽しそうに囁いた。
「パーティーの最後に軍が屋敷を封鎖する。だから、真夜中になる前に愛しの王子様と逃げ出すことだな、お姫様」
「なっ!?」
屋敷を封鎖する。
それはつまり、子爵だけでなく客や使用人に至るまで関係者全員の身柄が一時海軍預かりになるということだ。客の中から犯罪に協力した人物を一気に洗い出す気でいる。
それまでに屋敷を抜け出すことができなかったら、俺もリドも厄介なことになる。
他の軍人だけならまだ騙し通せるかもしれないが、アスティアーニ先生がいる。俺もリドも間違いなく顔が割れている。
「真夜中だな?」
「十二時の鐘が鳴り終わる時。その時に魔法が解ける。ロマンチックだろ?」
この時ばかりは彼に感謝した。
部外者、と言う割には俺を見上げるヘンゼルの瞳はあの頃の悪戯っぽいものから変わっていなくて、到底敵に向けるものじゃない。
いつもは豪快で、何をしでかすか予想できなくて、少し小賢しいところがあるが、俺の自慢の友人は随分と男前らしい。
女装している俺から素早くアベックの相手を割り出した彼は、何も分からないふりをして俺達を逃がすと言った。少女みたいな可憐な見た目に反して、かなり頼りになる。
それも今日までだろうが。
「ったく、王子様連れて逃げるお姫様なんて聞いたことねぇ。…むしろ海軍(うち)の従順な飼い犬がよその奴に誑かされた…」
「姫でも犬でもない!」
朗らかに、ヘンゼルが笑った。
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