2.
ピンクの髪、アイスブルーの目。
さらに可愛い羊の皮を被った魔王の気配。
ここまで来れば誰か分からない俺じゃない。ヒクリ、と痙攣しそうになる口角に必死に力を入れ、優しく、実際にはベリッと音がしそうなほど強引にそれを引き剥がす。
「貴様…、ヘンゼル…」
飴のような瞳が俺を見上げる。
一瞬零れそうなほど大きく見開いたと思ったら、すぐにそのアイスブルーに相応しい冷めた色を浮かべたのが見えた。
「って、お前かよ。抱き着いて損したじゃねぇか。返せ、ぷるんぷるんへの期待!」
「……………………」
こうして俺は旧友と再会した。
互いに女装をして、さらには抱き着かれながら胸にすりすりされている状態で。
一瞬魂が飛んでいった俺は悪くない。
「つか、どうりで必死に探してもクラウド中佐が見付からねぇわけだよ。…そりゃあ女になってんじゃ、男を探しても無駄だよな」
「誰が女だ。臨時だ、臨時!」
「胸入れとけよ。ぺぇっちゃんこじゃねぇか。せめてなんか詰め込めよ」
「なぁ、話聞いてるか?ていうか、そこまでしたら俺の精神がもたない」
「だから、そこらへんの野郎どもに勿体ねぇって言われんだよ。まぁ、そこが淑やかでたまんねぇってのも多いけど?」
「俺、そんなの言われてるのか…」
「俺なんてすげぇ詰め込んだぜ?」
そう言って、ヘンゼルは妙に豊満な胸を俺の腹に押し付けた。ぷに、ってしてる。
何が入っているか分からないし、こいつの正体を知っているから不気味でしかないが、周りの野郎どもはそうじゃないらしい。
慌ててどこかに走り去った何人かに、ヘンゼルは悪魔も顔負けの丸い笑みを浮かべた。
「どうだ、天才ヘンゼル様の偽乳は。たった二日で完成させたんだぜ?」
と、またふるんと揺らした。
とりあえず、
「俺、安心して海軍を離れられないんだが…。すごく心配になってきた…」
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