偽物注意
キーツを送り出したまではよかった。
問題はその後だったんだ。
空になったグラスを返すべくテラスから出た途端、突き刺さる野郎どもの視線。
(う、)
気のせいとか、意識過剰とか、そんな可愛いもんじゃない。むしろそうだったらいいとさえ思うが、生憎本当に舐め回すようなギラギラとした目を向けられているんだ。
軍人として幾度も死線をくぐり抜けてきた俺でさえ背中に冷や汗が滲む。
いや、戦場とは勝手が違う。
(…こ、怖い)
リドに助けを求めようと姿を探したが、ちょうど少し離れた場所で上品そうな夫婦と話をしていて、割って入るのは無理そうだ。
どうにかできる、とキーツに言ったものの、これはどうにもできない。舐めていた。
男ばかりの軍にいるから野郎のそういった眼差しを知っているが、それは他所の女性に向けているのをよく見るという話で、自分がその対象になるなんて予想もしていない。
つまるところ、
(どうやって対象するべきか、全く分からないんだが…。と、鳥肌が…)
ざわ、と腕を撫でた時だった。
「うわぁん、お姉さん、…っぐす、あのね、お兄ちゃんと…っぇ、はぐれ…ちゃ…!」
とん、と胸に衝撃を感じた。
「え?」
見ればそれはまだ幼い女の子だった。
ピンクを基調にふんだんに白のレースが使われた彼女のドレスは子供らしく短めで、白いヒールも年齢を考慮して低めだった。
だが、幼いにしても彼女は可愛くて、将来はきっと美人になること間違いない。
ふわりとしたピンクの髪、薄い青の瞳にはうるうると涙の膜を張っていて、今にも零れそうだ。甘い容姿はスウィーツのようで、ほんのりと香る香水さえ柔らかいバニラだ。
ふわふわとした幼い少女。とても庇護欲を掻き立てる可愛らしい子供だった。
それも次の一言で台無しになったが。
「んだよ、ぺっちゃんこじゃねぇか。…胸はねえのかよ、胸はよお」
俺の胸にすりすりと頬を擦り付けながら、不満そうに呟かれた一言を俺は絶対に忘れない。その声の低さも。
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