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2.


「行ってこいよ。前で聴いてこい」

クウォーツ先輩が誰よりも聴いてほしいと思っているのは彼で、彼もまたこの場にいる誰よりもこの演奏を聴きたいんだろう。

任務中でもこれくらい許される。

だが、俺の隣で遠くから恋人を眺めていたキーツは、意外そうに目を丸めた。

なのに、顔は逸らされずにずっと恋人の方を眺めているんだから、きっとその感情は強くて筋金入りなんだろう。

「…こんな可憐なお嬢さんをおいて?」

「か…、お前なぁ、」

「…いいんですか?僕が行ってしまったら下心しかない野郎共に言い寄られますよ?」

変な心配をする後輩を鼻で笑った。

「そんな奴ら適当に流すから心配するな。あと、俺は仲のいい恋人同士を引き裂こうとするほど野暮じゃないんだ」

ちら、と窺うような一瞬の視線。

言葉に甘えたい、だが、残していくのは心配だと分かりやすく告げる視線に、犬でも追い払うようにひらひらと手を振った。

「行けよ。俺は自分の隣で一番幸せそうにする奴じゃないと嫌なんだ」

と、軽い冗談。

そうしたら、思ったより真面目に、

「僕だって僕の隣で一番綺麗になるノエルの方がいいです。大好きなんですから!」

だなんてキーツが生意気に言う。

その生意気に笑ってしまって、そわそわと落ち着きなく演奏台を見る様子にさらに笑いが止まらなくなって口元を押さえる。

だが、目元も声も隠していないのにキーツは気を悪くした様子もなく、少しだけ俺に視線を向けては眩しそうに目を細めた。

「クラウド先輩、あなたがこんなに笑うのを初めて見ました。すごく綺麗で…。きっとレパードのおかげなんでしょうね」

「…そうかもな」

「だから、あなたはレパードの隣で笑ってるのが一番綺麗だと思いますよ」

そう言われて思わず顔が熱くなる。

夜風は涼しいのに熱は引いてくれなくて、してやったりとキーツが口角を吊り上げる。そして、風に靡くカーテンを押さえ、ホールに入る直前にこちらに振り返り、

「僕は、あなたを先輩に持つことができて大変光栄でした、クラウド先輩」

勝手に言うだけ言って、俺の返事も待たずにダンスホールに入っていってしまった。

相変わらず自由気ままな猫のような後輩に苦笑いがもれて、もう誰も聞いていないのに出てきた言葉は夜風に拐われて消えた。

「ありがとう、キーツ」

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