遠ざかる背中
※キーツside
尊敬していた。
だが、悔しくて、羨んでもいた。
たった一つしか違わないのにこの先輩は何でもできて、いつもまっすぐ背筋を伸ばして凛とぶれずに前だけを見ている。
彼が身に付ける純白は高潔で、誇り高くて、眩しくて目を閉じてしまいそうになる。
頼りになる上司で手の届かない先輩である彼は、座学においても実戦においても、戦場での冷静さでさえ一級品だった。
悔しい。…軍人としての縮まらない距離が。
だから、勝手に決めつけていたんだ。
(どうせ海軍しかないくせに)
よく言えば軍人の鑑の、悪く言えば冷静すぎて感情も見えないあの人は、きっと恋人なんてできやしないんだ。
できたって上手くいかないに決まってる。
悔しさから勝手に決めつけて、ちっぽけなプライドを守っていた自分がいた。
(でも、完全な見当違いらしいね)
実際、この先輩は白の軍服を脱いだとしてもまだ気高くて、瞳は澄んだままで、悩んでも苦しんでも前に進んでいく。
彼に恋人ができた。その間に立ちはだかる壁は自分とノエル以上に高く厚いのに、既に答えを出した彼はその壁を乗り越え、自らが選んだ未来に進もうとする。
かつてあんなに大事にしていた白でさえ捨て去った彼に、もう僕の完敗だった。
「先輩がいなくても問題ありませんから」
だなんて、精一杯の捨て台詞で。
彼は知っているんだろうか。
最後に会った去年の聖海祭からの一年、彼の表情が今まで見たことがないほど鮮やかで、生き生きとしていることに。
僕に問いかけた割にはマリンブルーの目に、怯えも迷いもなかったことに。
(とっくに答えを出してるくせに)
レパードと生きていくと決めたくせに。
結局、結論は一つ。
僕がずっと尊敬していた人は、間違いなく尊敬に値する人だったということだ。
(ったく、羨ましい限りだよ)
まっすぐなクラウド先輩の生き様が。
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