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16.


「この先の未来にあなたが持っていけない信念と誇りを、僕にください。あなたが大事にした民を守ることも約束します」

「っ、」

「だから、先輩はなんの心置きもなく好きな人の傍で生きてください」

あぁ、…あぁ。

俺はキーツの背中を押すどころか、こいつに勇気をもらってしまった。

幸せそうな笑顔で口にした一言に、ずっと迷っていた心は方向を見出して、ずっと踏み出せなかった一歩を歩む力が湧いた。

言葉にすれば簡単なもしれない。

リドの隣で生きていく。

だが、その未来をどれだけ求め、焦がれても、置き去りにしていけないものがあった。

分かっている。それを置いていけないならリドと共に生きる道を選ぶことはできない。彼と運命を共にするなら、それらの感情は邪魔な枷でしかなくて捨てるしかない。

だが、どうやら後輩は思ったより優秀で、

(俺がいなくても大丈夫だな)

なら、信念も誇りも必要ないじゃないか。

俺はもう海軍じゃない。だったら、海軍として持つべきものを持ったままで生きていく必要もないんだろう。

これから必要になるものがあるとすれば、

(リドへの愛情だけだろうな)

それはもうとっくに持っている。

「あと、先程の質問ですが、」

風に弄ばれる俺の横髪が、長くしなやかな指に梳かれていく。

グッと近くから覗き込んでくる大きな瞳は、俺が知っているいつものキーツらしく自信に満ちた悪戯なものだった。

その瞳が俺を映す。

「海賊になろうと、あなたはずっと俺の一番尊敬する先輩ですよ。…ずっと、ね」

パチ、とウィンクが飛んだ。

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