15.
「恋人がいたのか」
「えぇ。クラウド先輩も知ってますよ。ノエル・クウォーツ先輩です」
「っ!?く、クウォーツ先輩が!?」
初耳だ。
確かにカインズで宿屋を切り盛りするあの人に恋人がいてもおかしくはないが、それがキーツだというのは驚きだ。
「僕は南方の勤務ですので年に何回も会えなくて、…今回のこの警備だってカインズに留まるために上に無理を言いました」
本当に愛しそうな目をしていた。
「ノエルには申し訳ないとは思うんですが、僕もどうしようもなくて。…ですが、あなたを見て僕も決心が着きました」
「決心って?」
「あなたと同じように海軍よりも大事なものがあるって思い知ったんです。僕は僕なりに彼を愛してみせますから」
「海軍を辞めるのか?」
「まさか、」
その言葉に嘘はないらしい。
現状をどう変えるのか、キーツが下した決心はなんなのか、気にはなったが、きっと聞いても答えてくれないだろう。
だが、内緒だと悪戯に微笑む目は恋人への溢れそうな愛しさと未来への希望で満ち溢れていて、これ以上問う必要も彼の恋路を心配する必要もなさそうだ。
「あなたほどの勇気はありませんが、僕は精一杯の愛情でケジメをつけます」
悔しさも嫉妬も既に消えていた。
「クラウド先輩に頼ってばかりいますよね。海軍の時も、今も背中を押してもらって」
代わりにその眼差しは強さを増していた。
さらり、と風が吹き抜ける。夏の夜の過ごしやすい風に髪を靡かせて、キーツは手すりに手を乗せたまま背筋を伸ばした。
その表情は今まで見た中で一番しっかりしていて、凛としていて、揺らがなくて、強く芯の通ったものだった。
「僕達は大丈夫ですから、」
俺もそう思う。
そんな目をしているお前なら。
「先輩は先輩の望む未来に進んでください」
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