14.
「っく、はは、」
「き、キーツ?」
「ふふ、あはは、ッはは」
どこに笑ったのか分からない。
だが、笑いは止まらないようで、ついに白手袋で目尻に滲んだ涙を拭ってみせた。
髪と同じ柔らかいブラウンの睫毛が縁取るアメジストのような目。日の光の下でならワインレッドに見えるそれにはっきりと滲んでいた感情は敬服と、…嫉妬だった。
「あのですね、クラウド先輩」
また少し震える声で彼が言う。
「僕、あなたのことを尊敬してました。もちろん、それは今もなんですけど」
だが、嫉妬なんて感情が滲む割には、キーツの声は静かで穏やかで凪いでいた。
「でも、…少しだけ嫌いでした」
ぎゅ、とグラスを持つ手に力が入るのが見えた。思いきったようにキーツがグラスを一気にあおる。ゴクリと上下した喉。
口から僅かに溢れた雫を乱暴に拭うとキーツは俺から視線を外し、細長いグラスを持ったままテラスの手すりに肘を置いた。
瞳はどこを見ているか分からないが、ふと長い睫毛が悔しげに伏せられた。
「軍人の鑑で、なんでもできて、…僕なんて努力しても追いつかなくて嫉妬してました」
大好きな先輩ですが、と継ぎ足された。
「だから、舐めてたんです。どうせこの人は海軍しかないって、恋をしたらきっと上手くいかないって、…勝手に思ってました」
よく磨かれた手すりに爪が立てられる。
だが、手袋をした指先はその状態を維持するわけもなくずるずると滑っていって、小刻みに震える手は本当に悔しげに滑り落ちる。
「僕は恋人ができても傍にいられないのに」
「…キーツ」
「…なのにあなたは僕達以上の壁があるのに、ぶつかっても悩んでも苦しんでも最後には妥協しない答えを出して乗り越えていく」
ギリ、と奥歯を噛み締める音がした。
「悔しくて悔しくてたまりませんが、あなたは本当に尊敬に値する先輩のようだ」
キーツは睨むように、そして、吹っ切れて清々しくなったように笑ったんだ。
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