13.
「あいつの傍にいるのは今回だけだが、」
あぁ、どうしてだろう。
この爽やかな夜風に触れると、偽りなく淀みなく言葉がすらすらと出てくる。
「もしあいつが海賊じゃなかったら、一生を共にするほど惚れてる自覚はあるんだ」
あれだけ言えなかった言葉が、認められなかった選択肢が、言葉にすることによって急に現実味を帯びて眼前に現れる。
だが、それをリド本人ではなくキーツに言ったあたり俺はまだ迷っていて、この選択肢を選ぶ覚悟が足らないんだろう。
「あなたが大嫌いだった海賊ですよ?」
「あぁ、間違いないな」
「…もしという仮定の話じゃなくて、あれが海賊でも一緒に生きていけますが?」
「確かに一つの道だな」
もし、だなんて仮定の話で現実を語ろうとは思えない。実際リドは海賊で、俺のために船から降りさせようとも思わない。
だが、海軍を辞めて日が経つにつれて、リドへの愛がどんどん深くなっていく。
そして、遠い日俺が掲げていた誇りと信念は薄まっていないのに、それをかき消して薄く見せてしまうほどには心の中の感情が膨れあがって、止まりそうにない。
予感ならあるんだ。
俺はリドの手を取るだろう。
「なぁ、キーツ」
まっすぐ、まっすぐ彼を見据えた。
誰にも聞けなかった問いかけ。もしかしたら俺はキーツではなく、俺自身の心に答えを求めていたのかもしれない。
「俺が海賊になったら軽蔑するか?」
冗談なんかじゃない真面目な問いかけ。
だが、キーツはふと真摯な表情を崩したかと思うと、シャンパングラスを持った手を顔を隠すように掲げ、一歩下がった。
少しの間答えは帰ってこなかったが、僅かに震えた息と小刻みに上下する肩が見えた。目を丸くする俺とは裏腹に、震えはひどくなっていってグラスの水面まで揺れる。
そして、
「…ふふ、ははははっ!!」
声も抑えずに笑い出した。
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