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- ナノ -


10.


そこで、ハッとした。

俺の乗組員がいるならゼノも、そして、その大尉とやらも来ている可能性がある。

海上保安班が他の班の手伝いをする時、通常船長や副官が現場責任者となる。去年、乗組員を率いて巡回した俺のように。

(会えたりするのか?)

会っても言葉がないのは知っている。

サバイバルゲームであんな別れ方をして、まだ会いたいなんて言えるほど厚顔じゃない。会ってもきっと気不味くなるだけだ。

だが、やはり気になるし心配だから、その姿を遠くから一目だけでも見れないだろうか。

言葉はなくても構わないから。

そんな思いで周囲を見回したが、俺が知る限り大尉の位を持つ人物も、ましてや見慣れたゼノの姿も見付けられなかった。

(だが、たぶんいると思う)

そうやって忙しなく視線を走らせているうちに、演奏が一度途絶えた。

周りの招待客を見るとそわそわと落ち着かなくなり、ダンスホールの中央を開けるように移動したから、本格的に舞踏会が開始されてダンスを始めるんだろう。

気のせいじゃなければ、ジロジロ見られている。それも特に男性に。

ダンスのペアとして誘おうとしているのだと、分からないほど俺も鈍くない。だが、知り合いの軍人がいる中で踊りたくない。

なのに、背後から声が掛けられた。

「麗しいお嬢さん、」

それだけなら自分じゃないと思ったが、声は明らかに俺に向けて発せられていた。

「海色の瞳のそこのお嬢さん、」

どうやって断ろうかと悩みながら振り向こうとして、だが、ふとその柔らかい声をどこかで聞いたことがあるような気がした。

「人酔いしているのですか?もしもよろしければ、僕とテラスで休みませんか」

振り向いた先に立っていたのは、

「キーツ…!」

かつての副官だった。

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