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9.


(沿岸警備じゃなかったのか!?なんでよりによって俺の船が警備に来てるんだ!?)

いや、もう既に俺の船じゃないが。

頭は混乱しきっているが、そんなことをしている暇はない。すぐそこまで迫った二人に見付からないように顔を伏せた。

そして、彼らが目の前を通った。

「明日の朝やっと出航だな」

「あぁ、クラウド中佐がいなくなってから初めての航海だな。なかなか指揮官が配属されなくてどうなるかと思ったが、」

「クラウド中佐も気になるが、大尉が元気になってくれて安心したよ」

「…そうだな。新しい船に馴染むといいな」

郡の外では得られなかった情報が短い会話の中から流れ込んできて、まだ知りたいことがあるのに、まだ聞いていたいのに、二人は足早に通り過ぎた。

そして、声は高らかに響く演奏と舞踏会を前にざわつく人の声に消された。

(指揮官が配属されない、だと?)

だったら今まで何をさせられていた?

百歩譲って、俺が戻るのを待っていたとして、その間の半年間は今のように沿岸警備の手伝いをしていたと仮定しても、納得できないことがあった。

(大尉?大尉ってどこの大尉だ?)

船や乗組員のことを熟知しているゼノを差し置いて、別のところから来た誰かが配属されて、船長になったってことか?

ゼノだって指揮官としての腕は充分で、船長としても文句はないだろうに。

(新しい上官と上手くやれるのか?)

なんて心配している自分が嫌気が差した。

船を降りることを決意したのは自分自身で、ゼノをこんな状況に追いやったのだって紛れもなく俺なんだから。

(…悪いな、ゼノ)

他人事のように小さく心の中で呟いた言葉が、彼に届くはずもなかった。

もう一度顔を上げると二人の真白い背中は既に遠くなり、小さくなって招待客の向こうに消えようとしていた。

かつて共に戦い、同じ白をまとっていた仲間達は、たったこの半年で手を伸ばしても届かないほど遠くへと行ってしまった。

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