6.
予想もしていなかったんだろう。
大きく、大きくリドの目が見開かれた。
顎を固定していた指が逃げていって、そのまま口元を覆う。だが、泳ぐ視線も薄く色付く首筋も全く隠し通せていなかった。
「意外と分かりやすいな」
「っ、うるせぇよ、」
あぁ、もう首筋が真っ赤だ。
俺が首筋を見ていることに気が付いて、口元を覆っていた手が首筋に回される。
ガシガシと頭を掻こうとしたらしいが、髪をセットしているのを思い出したのか手が不思議に離されて所在なさげだ。
普段なかなか見れない反応につい噴き出してしまえば、軽く睨まれたが、視線が絡まり合えばまたリドが先に逃げていく。
「そんなに俺の女装が見慣れないか?」
「見慣れないんじゃねぇよ、…綺麗なんだ」
女装なんてまっぴらごめんだ。
だが、この反応は見られてよかった。
リドの反応が新鮮で、嬉しくて、頬を緩めたままでいると少し拗ねたような目を向けられて首を傾げた。
「あんま笑うな。敵が増える!」
「敵?」
「…ッ、お前をジロジロ見る野郎が増えるって言ってんだ!!あー、シルヴァがはりきって着飾らせやがるから、ったく!!」
「誰が男の女装に目が行くか。子爵を騙せたら上出来だ。しかも全員アベックだから」
そう言えばまた睨まれた。
だが、本気の睨みには程遠くて、見詰めあっていると睨みは徐々に呆れに変わり、そしてついに長くて重たい息が吐き出された。
「お前は出会った頃から無防備だったな」
「俺もそう思う。そのせいでどっかの誰かに付け入られたんだ。…どっかの黒猫に」
「で、今は誰が好きだって?」
「……お前だよ、リド」
その答えに彼はまた満足そうにはにかんだ。
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