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5.


そこに助け船が来た。

「子爵、こちらは私の恋人です」

優しく肩を抱き寄せられる。

リドに軽くもたれかかり、子爵からは見えない角度で繋がれた手に少しだけ力を入れれば、口から安堵の息が漏れた。

「夜会に連れてくるのは初めてでして」

「おぉ、さようか」

「初めてなもので少し緊張してしまっているようで、…申し訳ありません」

「謝ることはないよ。誰しも初めての夜会は緊張するものだ。…美しいお嬢さん、緊張せずに楽しんで踊ってくるといい」

リドの手を握れば強く握り返されて、勇気をもらって、やっと口が動いた。

「はい。ありがとうございます、子爵様」

そう言うのが精一杯だった。

だが、それで充分だったらしい。

ガチガチに固まった微笑みでも子爵は満更でもなさげに頷いて、反対に若干不機嫌になりかけたリドは軽く腰を折ると、俺に腕を組ませてエントランスを抜けた。

長い長い距離を歩いて、ようやくダンスホールに入って、人気も少なくて目立たない隅の方でリドはようやく足を止めた。

「緊張しすぎ。そんなに嘘つけねぇの?」

「お前はむしろ誰だ」

「お前の恋人だけど?」

「…あぁ、そういう奴だな、お前は」

いつの間にか日は沈んで、訪れたばかりの夜はまだ色が薄い。だが、昼間よりずっと涼しくなった風が不意に髪を揺らした。

折角風に当たって僅かばかりの余裕を取り戻したというのに、そのほんの少しだけの余裕もこの男に根こそぎ奪われた。

「で、その恋人に惚れ直したって?」

ドキッ、としてしまった。

クイッと顎を持ち上げる長い指は視線を逸らすことを許してくれそうになくて、リドの目が猫のように細まって笑う。

気に入らなかった。いつもいつも一方的にからかわれて遊ばれることが。

だから、反撃してみることにした。

「あぁ、そうだ。また惚れ直した」

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