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4.


「ベルトゥーリ子爵」

屋敷のエントランス、既に広くて豪華なその空間で呼べば中年の男性が振り返った。

「おお、これはこれは…」

俺達なんて記憶にないだろう。当たり前だ。招待されていないのに勝手に来たんだから。

だが、エントランスに入れるのは受け付けを済ませた招待客だけで、リドの偽物の招待状でもすんなりと入れたんだから記憶になくても俺達は招待客に含まれる。

誰かは分からないのにそれを微塵も見せずに人が良さそうに微笑むあたり、だてに長らく貴族をやっているわけじゃないらしい。

「本日はお招きいただき、誠にありがとうございます。父は持病の悪化で来れず、…本当に残念がっておりました」

(えっ!?)

ニッコリと上品にリドが微笑む。

普段の男らしい、というか海賊の雰囲気を見事に隠したそれに軽く目を見開いた。

(いや、誰だお前!?)

思わずそう言いそうになったが、奥歯をグッと強く噛み締めてなんとか耐えた。

(父って誰だ、そんな設定あったか!?)

頭がついていけなくなって、貼り付けた笑顔のまま固まってしまう。だが、俺と同じように状況を飲み込めていないだろうに、にこやかな子爵はなんと返事をした。

「それは誠に残念で…。今度見舞いに参りますとお伝えくださいな」

(え、誰か分かってないよな、絶対!!)

当たり前だ。存在しないんだから。

気を抜けば半開きになりそうになる口に力を入れて、口角を吊り上げる。見た目だけなら淑やかなレディを演じていたと思う。

だが、遠く彼方に飛んでいった思考は、子爵の一言によって呼び戻された。

「ん?この方はどなたですかな?」

「…っ、」

急に引き戻されて頭がまともに回らない。

ポン、ポン、と注意を促すように軽く腰を叩かれても言葉が出てこなかった。その間も子爵の言葉は続いていく。都合の悪い方に。

「今夜初めてお会いするレディですな。こんな美しいお嬢さん、以前会ったことがあるなら印象に残らないはずがあるまい」

恋人だ、と。

あらかじめ用意していたのに、乾ききった唇は思い通りに動いてくれない。

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