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3.


少しして屋敷に着いた。

馬車は屋敷の前、それは高くて立派な門の前に停められた。従者が扉を開いてリドが降りて、俺が降りる前に手を差し延べる。

その白手袋に包まれた大きな手に自分の手を重ねれば、じわりと温かさが伝わった。

エスコートされて馬車を降りるが、

「ッ!?」

慣れないヒールにバランスが取れなくなって、体が傾く。だが、地面に倒れることはなくて、気が付けば温かさに包まれていた。

誰かは言うまでもなくて、

「おっと…、危ねぇな」

低い声が耳元で囁く。

ぎゅっと手を握り締められていて、もう片方の手は腰に回されて支えてくれていて、黒髪がサラリと首筋を滑っていく。

また煩くなる心臓を全力で落ち着かせて、必死で冷静を装った声は、いつもより小さくてリドへの内緒話のようだった。

「悪い。バランスが取れなくて、」

「仕方ねぇな」

少し困ったような苦笑い。

そして、さっと周囲に素早く視線を走らせたかと思うと、夕焼けに煌めく深緑の宝石は細まり、悪戯っぽく意地悪に笑った。

「お前が綺麗で皆こっち見てるぜ?」

「っ、な、そんなわけ…!!というか、お前はいい加減離れろよッ!!」

俺は恥ずかしくてたまらないのに小声で会話しているから、周りは仲睦まじい恋人達に見えるんだろう。それくらい分かった。

なのに、こいつは離してくれないどころか、さらに過激な行動に出やがった。

「目ぇ閉じろ」

「…なんだ?」

「いいから」

素直に従った俺が馬鹿で。

目を閉じた瞬間、ちゅ、と柔らかい感触が額に落とされてはさっと逃げていく。

その正体には見当がついていて、大きく目を見開けば楽しそうに俺の前髪で遊んでいるリドと目が合った。

「どうだ、機嫌なおったか?」

「お前って奴は…」

もう俺も苦笑いをするしかなくて、だが、不思議と嫌な感じは全くしない。

リドから視線を逸らした俺が周りの人が全員こっちを見ているのに気付くのも、真っ赤になりながらリドにエスコートされて歩くのもこれから僅か数秒後のことだった。

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