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2.


馬の蹄の音が高らかに響く。

これ以上リドを見詰めていると隠せなくなるくらい顔の温度が上がっていくと思うから、ずっと窓から外を見ていた。

そうしていると遠くに屋敷が見えてくる。直接行ったことはないが、規模や雰囲気からして貴族の屋敷で間違いないだろう。

(ベルトゥーリ子爵…、)

ダイヤを盗んだ人間であり、今夜俺達の盗みのターゲットでもある。

徐々に近付いてくる屋敷を眺めていると、不意に肩を抱き寄せられた。そのまま勢いを従ってリドの胸に倒れ込む。

普段は香水なんてつけないのに、今日に限って澄んだ花の香りがする。だが、それでは隠せない潮の香りが心地よかった。

グッ、と抱きしめる腕に力が入る。

「任務前みてぇな険しい目すんじゃねぇよ。ただの舞踏会だと思って楽しめ」

「いやいや、目的があって行ってるんだから。それにいつ戦うことになるかも」

しれない、と。

そう続くはずだった言葉は、優しくて包み込んでくれる眼差しの前に消えてしまった。

そして、自信がみなぎる声で、ただ一言。俺の目を見据えながら少しはにかむように、頼りになるしっかりした表情で、

「そん時は俺が守ってやるって言っただろ」

迷いもなく言ってのけた。

実は、リドに黙っていることがある。

ナイフだ。持ってこなくていいとは言われたが、いざという時に自分の身さえ守れないのは足を引っ張る。だから、それは今ガーターベルトと共に俺の太腿にある。

だが、それでもリドが頼もしくて、その言葉が嬉しくて、熱く火照った耳を感じながら控えめにジャケットを握ってみた。

「あぁ、頼りにしてる」

「…おう」

清らかな花の香りが、リドの体から俺の体に移ってきたような気がした。

そして、俺の体に染み付いた海の香りと程よく混ざりあって、同じ匂いになったことが俺は嬉しくてたまらなかった。

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