8.
「バ、ッカじゃないのか!」
バクバク、と鼓動の音がやたらと速い。
あぁ、本当にこの男の傍にいるといつも翻弄されて、とても落ち着ける時間がない。
なのに、こいつの隣が世界で一番心地よくて、世界で一番幸せな場所だって本能が言うんだから困り果ててしまう。
「お前に守られなくても、俺は!」
照れ隠しで、意地になって、捨てられたガーターベルトに手を伸ばそうとしたものの、その手を絡め取られてしまった。
白い手袋からはいつもの体温が薄まっていて、肌と肌が直接触れ合っていないのに恋人繋ぎにされた指先が緊張してしまう。
そして、指先に唇が軽く押し付けられる。
「お前に刃は必要ねぇよ」
「何言って、」
「軍人を辞めて、海賊でもねぇ今のお前にナイフを扱う理由はねぇって言ってんの。その代わりに俺が守ってやる」
エメラルドは思ったより真剣で。
引き込まれるような鮮やかな緑色は一瞬も逸らされずに俺に注がれていて、その真摯な表情の前に言葉を失ってしまった。
ぎゅっ、と強く握りしめられた指先。そこから伝わる本気の感情は心地よくて、ずっとこのままでいたいとさえ思うんだ。
「お前が俺を必要としてくれる限り、いつまでだって守り通してやるよ、ロー」
剣は軍人の誇りと共に捨ててきた。
守るもののない俺にはもう必要ない。
お前が俺の守るべきものとなり、もう一度剣を握る理由になる日が来るのだろうか。
こんなに強いお前は俺なんて必要ないのかもしれない。それでも、この先ずっとお前の隣で生きていく未来を想像しなかったと言えば、それは真っ赤な嘘だった。
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