6.
前戯もなく入ってきた熱い舌。
ザラザラとしたそれは焦ってはいなかったが、それなりに激しくて、今のこの見た目に似合っていなくて少し笑った。
俺が鼻で笑ったのを聞いていたらしく、リドが不服そうする。そして、激しさを増した舌の動きに俺は自ら口を開いて受け入れた。
ピタリと隙間を埋め合うように重ね合わされた唇。クチュクチュと響く唾液の音は、上品さよりも妖艶さが目立っていた。
絡み合う熱にシワになるのも構わずに、リドの背中にすがりつく。思考が溶かされそうで、何がなんだか分からなくなって。
思わず漏れた吐息すら混じり合う。
舌を甘噛みしてやれば、エメラルドが挑発的に笑ったのが見えた。直後に上顎を舐められて体が震えたのはリドに伝わっていただろう。気配がとても楽しそうだ。
本能的に求め合うようなキスに距離をなくしたいと思うのは当然で、俺も知らずのうちにリドを抱きしめる腕に力を入れた。
だが、ふとシルヴィアと目が合って、
「俺のこと、忘れてね?」
一気にリドを突き飛ばして咳込んだ。
「こっほ、ごほ、…ッう、…忘れてた」
「うわ、ひでぇ」
「俺の方がひどいって言いてぇよ。さっきまで熱いキスを交わしてたのに、一気に突き飛ばされたんだから。つれねぇな」
そういう割には、実際はリドは突き飛ばされていなくて、俺が軽く胸元を叩いただけだった。その腕はまだ俺の腰にある。
リドの表情に羞恥なんて全くなくて、ペロリと悪戯っぽく出された舌が実は確信犯だったと告げてくる。この性格はよく知っているから怒るよりも呆れてしまった。
彼の唇は少し赤く汚れていて、よく見ればそれは俺が塗られた口紅だった。
「ん、口紅取れてるな、お前」
「誰のせいだ、誰の」
「俺がキスしたから」
悪びれた様子もなく幸せそうに笑う。
そして、謝罪の代わりに触れるだけの軽いキスを落としたかと思うと、一度目を合わせて微笑んでから額に優しく唇を落とされた。
それに耳や首筋まで熱くなっただけでなく、一気に緊張まで解されてしまった。
「緊張すんな。俺がいる」
あぁ、幸せでどうにかなりそうだ。
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