4.
「…なんでこんなものが船にあるんだ」
「備えあれば憂いなしって言うだろ?なんなら、女性下着とかもあるが、いるか?」
「いらない!」
「おっと、」
キッ、と強く睨めばおどけたように肩を竦められたが、シルヴィアが本気で怖がっていないことくらい俺にだって分かる。
俺がリドに心底惚れきっていてセイレーンに手を出すつもりがないとわかって以来、最初の怯えっぷりが嘘だったかのように陽気に、そして、うざったくなった気がする。
ヒク、と引きつる頬に我慢しながら睨んでいると、突然ドアが開いた。
「準備できたか?」
出てきたのはリドだった。
「おいコラ、俺の恋人に迫るなシルヴァ」
「迫ってねぇよ。支度の手伝いだ」
「それでも近すぎだ。さっさと離れろ。…ったく、レディの身支度に時間がかかるのはどこでも同じだな。待ちくたびれたぜ」
ふっ、とリドが口角を上げて笑う。
おそらく俺が反論することを見越して言い放たれた揶揄の一言だろうが、それを気にする余裕もないくらいリドに見惚れていた。
(やばい、…格好いい、)
隙なくきっちりと着こなされたブラックのタキシードは仕立てがよく、長い手足を際立たせていて、しなやかでとても綺麗だ。
それと対照的なホワイトのシャツは一番上までボタンがとめられていて洗練された美しさを醸し出すのに、男らしい喉仏が色っぽくて危ない魅力を醸し出す。
後ろに流すようにセットされた漆黒の髪。
いつもは無造作にしているのに、軽く整えるだけで品の良さが滲む。品の良さだなんて荒くれ者の海賊では持ちえないのに、リドには恐ろしいほどよく似合う。
ポケットチーフは俺のドレスと同じマリンブルーで、モノクロの礼服を鮮やかにした。
そして、一番存在を主張するエメラルド。
その気高い宝石はいつものように鋭かったが、俺と目が合うと一瞬だけ見開かれて、その後すぐに優しく柔らかく細まった。
「…綺麗だな」
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