3.
で、今に至る。
「し、シルヴィア、いいか。よく考えろ、俺以外にも適任はいるだろ?」
朝からシルヴィアと攻防を繰り広げているが、気付けば色々と着せられていた。
着せ替え人形のようにドレスを何着も着てはまた脱がされて、靴もヒールの高いものを次々と履かされた。
結局、落ち着いたのは瞳の色とそっくりだと言われたマリンブルーの細身のドレスで、走ることを考慮してスリットが入っている。
そして、たくさんある靴の中からリド自ら選んだ純白のヒールは、踵の部分が透明なガラスでできていて上品に輝いていた。
とあるお伽話に出てくる靴に似たそれは履き心地こそ悪くないものの、まさかこんな靴を履く日が来ようとは夢にも思わなかった。
というか、暫く夢で魘されそうだ。
「いねぇよ、適任なんて。二人で入るんだからさ、どっちかが女装しねぇと」
「…リドにやらせればいい」
「それ、本気で言ってる?」
「…………無理だろうな」
「分かってんじゃん」
喉を隠すためにつけられたアイスブルーのチョーカーにはサファイアがついていて、少し重い。夏用の薄手の半透明なストールは体を守るにはあまりにも頼りない。
被せられたウィッグは俺の地毛と同じ金に近いクリーム色で、華やかに編み上げられている。控えめだが品のある濃いブルーの髪飾りと、鮮やかなピアス。
少し長いそのピアスはやはり先にサファイアがついていて、動く度に僅かに揺れる。
つまり、完全に女装させられてしまったが、化粧だけは勘弁してほしい。といっても、既にほとんど終えて、残りは口紅だけだが。
「や、やめ、」
「俺じゃなくてリドに塗ってほしい?」
それは本当に嫌だ。
その場面を想像して硬直している間に、さっと手際よく口紅を塗られてしまった。
少しベタッとして湿っている唇は俺には見えないが、シルヴィアは至極満足そうに笑って、やっと口紅をしまった。
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