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舞踏会


「シルヴィアふざけるな!やめろ!」

「ふざけてねぇから、大真面目だから」

「ま、待て!来るな!!」

「いや、待たねぇ。覚悟決めろよ、中佐様」

「海軍はもう辞めた!」

「それでももう待たねぇ」

ひっ、と乾いた喉を引きつらせて慣れない踵の高い靴で後ずさる俺と、ニヤニヤと楽しげな笑みで真っ赤な口紅を持ってじりじりと近付いてくるシルヴィア。

リドの要求という大義名分を得たシルヴィアは、俺が拒否できないと知ると、少しずつ俺を壁際に追い詰めてくる。

(楽しんでやがるな、こいつ!!)

冷や汗が首を伝い落ちる。

さっと視線を走らせて逃げ場を探すものの、部屋の出口はシルヴィアの背後にあるのだから脱出は難しいらしい。

仮に走りにくいこの靴で逃げられたとしても、すぐ隣の部屋には黒豹がいるのだから十中八九また捕まってしまうだろう。

そして、考え事をしていたその一瞬、シルヴィアは俺の目の前に立っていた。

にたり、と輝くいい笑顔だ。

「ひっ、」

「つーかまえた」

それは普段は気の弱い大型犬さながらのこいつが初めて見せた、言ってしまえば本物の海賊らしい悪役の笑顔だった。

手に持っているのは口紅だが。

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