7.
(それ以上言ったら噛むぞ!)
とは言っても、唇同士をくっつけただけで歯なんて少しも立ててない。
驚愕で見開かれた色鮮やかなエメラルドは、少しすると満更でもなさそうに細まって、まだ言葉を続けるように少し口を開けた。
(まだ何か言うつもりか、この野郎)
言わせてやるもんか。
意地でも黙らせようと、開いていく口に合わせて俺も僅かに口を開けた。なのに、リドはまだ止まらずに口を開けていく。
至近距離で彼の目が楽しげに笑った。
そして、はめられたと知ったのは開いた口の中にぬめった舌が入り込んできて、がっしり後頭部と腰を押さえられた時だった。
「っんぅ!?」
いきなりのことに驚いて、爪先立ちにした足が戻ってしまう。だが、リドは躊躇わずに追いかけてきてキスが深まっただけだった。
くちゅ、くちゅ、と音がする。
それに混じって余裕のない息遣いも。
絡まり合う舌はピリピリと痺れて、背中が震える。キスの合間に呼吸したいのに、全てを奪うようなキスは貪るように激しい。
角度を変えて深く交わる。遠慮なく奥へ入ってこようとする熱い舌を軽く噛めば、仕返しとばかりに上顎を舐められた。
クラクラと目眩を感じるのは酸素が足りていないからか、それとも、愛しい人が与えてくれる快感に酔っているからなのか。
俺が仕掛けたのは不意打ちのバードキス。
返されたのは、騙しうちのディープキス。
どちらが勝ったかなんて、どうでもいい。ただ全身を駆け抜ける快感に溺れて、もっと、と先を強請るように自ら口を開けていた。
(愛している、リド)
今まで培ってきた立場を捨て、仲間を捨て、そして、心に根付いた信念ですら一瞬揺らいでしまうほど本気で愛している。
海賊に堕ちて、一緒に行こう。
一緒に船旅をして、共に歩もう。
一瞬でもその考えが頭をよぎって、だが、次の瞬間には冷静になっていて、馬鹿なことを考えた自分自身に嫌気が差した。
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