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4.


「なんでそうなる?」

「後夜祭の醍醐味だろ?」

「…だからって、」

「踊れんだろ、女役」

ピク、と頬が引きつるのを感じた。

決して俺は女役を踊れるような容姿をしているとは思えないが、残念ながら士官学校で習ったことはリドも知っている。

毎年のサバイバルゲームでゲームオーバーになった罰が後夜祭で女役を踊ることで、これを公認して生徒に教えてすらいる士官学校は、本当に迷惑極まりないと思う。

それを言えば昔とはいえ海軍に属していたリドも女役を踊れるだろうが、昔すぎて忘れた、とか抜かしやがるんだろう。

(この際女役でもいいか)

…リドと踊れるのなら。

思えば俺を追っていた時の表情があまりにも切なくて、だが、俺を抱きしめた今の表情があまりにも幸せそうで、それ以上強く拒絶することなんてできそうになかった。

踊るから離せ、と視線だけで訴えれば、リドはそれは穏やかに微笑んだんだ。

俺から腕を離して動く空間を与えてくれる。そして、離れていく瞬間、するりと恭しく俺の髪を一房だけ手に取った。

「髪、切っちまったんだな」

「…邪魔だったんだ」

嘘だ。あの時は自分と関わりのある全てのものを断ちたくて、思い切って髪を切った。

だが、まだ長かった頃、リドが優しく撫でてくれたのを思い出して、懐かしいと思った。

「勿体ねぇな」

長い髪がいいならまた伸ばそうか。

喉元まで出かかった言葉を、呑み込んだ。

リドのためにまた伸ばすのはまだしも、髪があの時ほど長くなる頃には既にダイヤを手に入れて、きっとリドの傍にいないだろう。

だから、果たせそうにない約束をしたくなくて、何も言わずに口を閉じた。

「だが、今のも似合ってる」

リドがこんな口説き文句をさらっと自然に言えるのも今更ってもので、相変わらず恥ずかしいのは俺一人だけらしい。

だが、気取った様子はなくて、髪先に落とされた唇に俺がここまでドキドキしてしまうのも後にも先にもリド一人だけだろう。

「一曲付き合ってもらえるか」

「…喜んで」

お前が願うならいくらでも。

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