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3.


考えてもいなかった。

まさか自分が誰かを愛し、しかもそれは宿敵である海賊で、その海賊のために何もかも投げ出してしまうだなんて。

だが、今はそうなってしまって、半年リドと会っていない今、彼の腕の中がどこよりも落ち着くと思い知った。

ピタリと背中にくっついた硬い胸板。吐息と、時折肌に降ってくる唇。

温かくて力強い腕が大好きだ。

なのに、その腕は俺の存在を確かめるように何度も掻き抱くように強く抱きしめてきて、不安そうにしていた。

「何をそう不安そうにしているんだ」

「ちゃんとお前がいるかと思って」

「どこにも行かないから安心すればいい」

「…信じられっかよ」

「…まぁ、そうだな」

一度姿を消した俺の言葉なんて。

思わず浮かべた苦笑いに喉が震える。

とっくに日が落ちた夜の闇の中、俺達二人しかいない路地裏の小さな空き地に、妙に乾いた笑い声がよく響いた。

少し離れた場所に見える広場の焚き火の火は燃え盛り、闇を照らす。なのに、リドの隣の方が温かくて明るいと思った。

風に乗って運ばれてくる後夜祭で奏でられる音楽。去年は焚き火のすぐ近くで聞いたそれは今年もやはり楽しそうで、一年もの時が過ぎたことを俺に告げた。

人の集まる広場には自然と軍人も集まるから、近くには行けない。

それが少し寂しい。

そう思った途端、思っただけで口に出していないのに、タイミングを読んだかのようにポツリとリドが呟いた。

「踊ろうぜ」

先程の不安そうな雰囲気なんて跡形もなく消えていて、遠くから聞こえる音楽に楽しそうに笑っては悪戯っぽく目を細める。

あまりにも無邪気に笑うから、開きかけた口はまた閉じてしまって、舌先まで乗っかった文句がついに出てくることはなかった。

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