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8.


想いを伝えられたら楽だろう。

だが、海軍としての俺が何かを口にすることを許してくれなくて、溢れそうになる想いを背中にすがる手に込めた。

(あぁ、そうだ。…お前が好きだ)

失う直前で重さを思い知らされたんだ。

頬に降っていたキスは少しずつ唇の方へと移動していって、一度だけチュッと音を立てて唇に触れると僅かに止まる。

そして、唇に吐息がかかるほどの至近距離で安心させるようにふっと微笑んだ。

「もう何も言うな。言わなくていいから…」

こんなにも不安なのに、未来がどうなるか少しも予想出来ないのに、この力強い深緑を見ると妙に落ち着いてしまう。

「俺が傍にいるからお前は安心してろ」

お前が現れたから俺はこんなにも不安になっているんだ、なんていう文句は唇に直前重ねられた唇に奪われてしまった。

最初から深いキスだった。

貪るような、吐息を奪うような、口の中を犯してくるような激しいキス。親愛をではなく、燃え盛る感情を代弁するものだった。

歯列を割って入ってくる舌を招き入れて、自ら絡み合わせる。舌のザラザラした感覚に目眩がしそうで、体から力が抜けていく。

上顎をくすぐる舌に肩を跳ねあげれば鼻で笑われた。やり返すべく舌を甘噛みすれば、逃げ場を奪うように後頭部を押さえられる。

角度が変わって、さらに深くなって、唾液が絡まり合う水音が鮮明に聞こえる。

トン、と背中に軽い衝撃がして壁に追い込まれていることを知ったが、逃げる気もなくて、もっと、とキスの先をねだった。

互いに求め合う熱いキスは冷えきった体には心地良くて、与えられる刺激が気持ちよくて、溶けそうな快感に満たされる。

激しいキスだったが、実際には呼吸をする時間を上手く与えてくれるキスだった。だからこそ、こんなに長く互いを感じていた。

焼けしそうに熱い舌に無我夢中で応えて、絡めて、彼の温度を覚えるように触れた。

全てを忘れたかった。

今夜一日だけでいいから、明日になったらまた今までの関係でいいから、せめて今夜だけは建前を捨てて本音で生きたかった。

妙な夢を見たな、って明日になればきちんとそう言って割り切るから。だから、

(今だけ触れていたいんだ…!)
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