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5.


「最低!こんの、誘拐犯!!」

「人聞きの悪ぃ。同意だっつの」

「クウォーツ先輩、本当に大丈夫ですから」

「クラウド、もしかして弱み握られた?…獣め、クラウドが好きなのは知ってたけど、こんな手段で連れ込むなんて…ッ!!」

もう収集がつかない気がする。

クウォーツ先輩はよく面倒を見てくれていたと知っているが、まさかこんなにも激しく噛み付くとは思っていなかった。

ふとレパードの唇が耳元に近付いてきて、かかった温かい吐息にビクッとしてしまう。俺にしか聞こえない小さな声で囁いた。

「逃げるぞ」

鍵は持ってるから、と。

ちら、とレパードに視線をやれば、綺麗な瞳が意味ありげに細められた。子供のように悪戯っぽい深緑に目を奪われる。

唐突に俺の手を引いて走り出す。

まだ何か言い続ける先輩の隣を通った時、先輩は奴をきつく睨んだが、不満を言っただけで追いかけてこなかった。

「クラウド、何か嫌なことされたら叫ぶんだよ!?僕が刺しに行くからね!!」

心配されているのが嬉しくて頬が緩む。

先輩を安心させるために微笑めば、先輩がほっと肩から力を抜いた。

階段に上がる直前、クウォーツ先輩がいつも休憩に使っているだろう奥のプライベートルームの中がちらりと見えた。

ドアを開けっ放しにしたままの部屋は柔らかい色の家具で統一されていて、暖かくてとても居心地がよさそうだった。

だが、それよりも目を引いたものがあった。

(電報の機械?)

一般の宿屋にはあまりにも似合わない機械が、確かにそこにあった。そして、その隣には鳥の止まり木と一枚の白い羽。

…聖海祭の日、図書棟で見かけたのと全く同じふわふわの白い羽。行方不明者名簿を破いた誰かが落としていったあの羽だ。

その瞬間に、カチリ、と今までバラバラだったピースが合わさる音がした。

だが、今そんなことを深く考える余裕はなくて、俺の手を握って引っ張って走るレパードについていくので必死で。

その手が離れてしまわないように、ただ握るだけだったものから指を絡めた。
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