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独りの寒さ


いよいよ本格的に降り出してしまった雨は、まだ秋だと言うのに随分と冷たい。

白い雪に変わる直前の身を切るような雨は軍服すらも完全に濡らしてしまって、体の奥まで凍えさせた。

大きな雨粒が容赦なく全身を打ってきて、悴んだ指先は動かしにくかった。

(…バカか、俺は、)

もう苦笑すら出てこなかった。

ゼノが有給の申請をして、それが受理されてからもうすぐで二週間が経つ。

忙しい時季ではなかったから有給の申請はあっさりと通り、俺は休暇を手に入れた。

ゼノには頭を冷やせと言われたが、いざ何もやることがなくなればまたレパードのことを考えて、心配してしまう。

思考がのめり込んでいくことはあっても全てをなかったことにするのは無理だった。

考えれば考えるほど心配になって、心配すれば心配するほど会いたくなって、会いたければ会いたくなるほど恋しくなる。

もう悪循環だと、自覚はあった。

だが、そこから抜け出せなかった。

一人でいる時間をなくせば意味のないことを考える時間もなくなる。そう思って、この二週間は色々な理由を見繕ってはかつての旧友達を訪ねていた。

船をことでヘンゼルを訪ねれば台無しにしたことで嫌味を言われたが、最後にはもう一隻用意してくれると約束してくれた。

クウォーツ先輩のところにも行こうとしたが、時折ぞっとするほどの鋭さを見せるあの先輩に今の胸の内を見破られるのが怖かったから、行かなかった。

だが、結局、立っても座っても落ち着かなくて、日も落ちてかなり経った頃に本部を抜け出して街に出てきた。

降りそうだな、とは思っていた。

だが、傘を取りに行くのが面倒でそのまま出れば、案の定降り出した。それも視界を奪うほどの土砂降りで、ひどく冷たい。

全身ぐっしょりと濡れて、奥歯を噛み締めなければ今にも歯が鳴りそうで、冷たくて、寒くて、凍えて、…心細い。

心細い、なんて感じたのはいつぶりだろう。記憶の中にはもうなかった。

寒くてたまらなかったのに、それでも雨宿りをすることなく歩き続けていたのは、そうすればいずれはあの黒豹に会えると思っていたのかもしれなかった。

とりあえず、いるはずもない温もりを求めていた俺は、相当のバカなんだろう。
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