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B

人間ではありえない鮮血色の瞳は愉快そうに弧を描き、獲物の動きを観察する肉食獣のようにじっと俺を見据えていた。

人間離れした美しい顔は逃げようと思うことすらさせない威圧感を醸しだしていたが、殺気はなくて不思議と安堵した。

「魔王?…なら、姫は?」

「姫?んなもん知らねぇけど」

「嘘だ。美しい姫を拐ったって聞いた」

「なんの噂だよ。言っとくが、俺は女が苦手だ。香水くさくて頭いてぇし、何かありゃあピーピー煩ぇし」

「拐っない!?」

「渡されてもいらねぇ。俺の好みは高い気品があって、凛々しくて、もっと強気な、」

すっと目が細まる。

男性だとは思えない白くて細くて華奢な指が俺の顎に添えられ、クイッと顎を持ち上げられば、互いの視線が混じり合う。

「例えば、お前みたいな奴」

端整な顔が近づいてきて、ピントがぶれる程の距離になって、軽いリップ音を立てながら額に柔らかくて温かいものが触れて。

キスされた、と気付くことにそう時間は必要じゃなかった。

顔が真っ赤になるのを感じながら何か言おうと、だが、言葉が見付からなくてハクハクと口を動かす俺とは裏腹に、奴はやたらと悪戯が成功した子供のような顔をしていた。

「は、可愛い顔」

奴には余裕の有り余っていた。

女がどうかとか、誰が好きかとか、そんな話題から離れたくて無理に話を変えた。

「な、なんで、眠っていた」

「あぁ、昏睡していたのには理由がある」

「昏睡!?」

そんなに眠っていたんだろうか。

「昔、俺が魔王として君臨していた頃、まぁ、お前が生まれるずっと前だろうな、…ある日風邪を引いちまったんだよ」

懐かしんでいるのか、表情が和らぐ。

王としての威圧感や威厳を醸し出していた時も綺麗だと思ったが、今みたいにふと和らいだ表情も綺麗で、思わず見惚れてしまった。

奴はふよふよと漂っていた光、俺をこの部屋にまで連れてきた光に向かって手招きをすれば、それが魔王に近づいて来る。

伸ばされた手にちょこんと控えめに鎮座したそれを奴は突っつき、ちょっかいを出していた。その度に光が、ぷるん、と揺れる。

「結構ひどくて、薬が嫌で飲まなかったんだよ。ほら、あれって苦ぇし、」

「は、薬?いや、薬?つか、魔王って風邪なんか引くのかよ。体よわ!」

「で、拒否し続けてたら世話役がキレて、薬を俺の口に放りこんでから鼻を塞ぎやがった。あの時、鼻が詰まっててさ、」

「…まさか、」

「酸欠で失神」

徹底的に言葉を失った。

奴は光をつつき続けて遊んでいた。
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