しあわせのかたち | ナノ

ナマエがまだ3歳の頃、保育園で同じクラスだった園児にこう言われたらしい。

―ナマエちゃんってさぁ、ぱぱもままもいないんでしょー?

ナマエはこう答えたらしい。

―ちがうもん、いるもん。いまはちょっととおいとこにいってるだけだもん!

目から大粒の涙を溢しながら話し相手の園児をキッと睨みつけ、今にも喧嘩をし出しそうだったと保育士の女性から聞かされた。夕暮れのオレンジに照らされ園の入り口で未だに泣いているナマエの横に小さくしゃがみ込む。ずびっ、鼻水を啜りながら俯きオレを見ようとしない彼女にオレは少し困惑した。子供の宥め方など分からないし、返って状況を悪化させてしまったらそれこそ面倒なことになる。
どうしたものかと頭を抱えていると、少女の涙声が鼓膜を震わせた。

「…にーに……ナマエ、わるいこ?」
「!」
「せんせいにね、けんかしちゃだめでしょって、ね…っ、おこ、おこられちゃってね……」
「………」
「にいにも、さっき、せんせいにおこられてたの?ナマエがわるいこだからって、おこられてたの?」

ごめんねと泣き喚く妹は、オレにしがみ付いて制服を濡らした。別に怒られていた訳じゃない。オレが居ない間にあった出来事を聞いただけだ。所詮言い聞かせようと意味は無いだろうから口には出さなかったが、それでもお前は悪いんじゃないと妹を抱きしめる。勿論こんなことで泣き止む訳もない。オレはお前が泣いているのが嫌なんだ。支えてやりたい。守ってやりたい。幸せにしてやりたいと思っているんだ。

だから、

「ナマエは悪い子じゃないよー!」
「!」

数ヶ月前に友人のリンから「これ絶対オビトに似合うよ」と貰った渦巻きを連想させる橙色の面を着け、おどけたようにそう言ってやるとナマエはきょとんと目を丸くしてオレを見つめてきた。

「ナマエはとーってもいい子だからね!兄ちゃんはナマエが大好きだよ!」

だからもう泣かないの!
オレらしくもない甲高い声でふざけながら頭をがしがしと撫でてやると、いつの間にかナマエの瞳から涙は消え、きゃっきゃと楽しそうな笑い声が響いた。

「にいにおもしろい!」
「てへ!」
「れへ!」
「れへじゃないよ!てへだよ!」
「てへ!」

こんな姿、カカシにでも見られたら数週間はネタにされるな。それでもこいつがこうして、笑ってくれるなら。それでも別に構わない、と思えるのはやはりたった一人の肉親だからなのだろう。