僕が怒った理由は、ほんの些細なことだ。いつものように学校へ行ってトランクスくんと喋ってから自分の教室に行ったら、ナマエちゃんが僕の席の近くに座ってる男の子と楽しそうに話していた。そりゃあ誰とも話すななんて言わないし、普通に話してるようだったから普段なら気に止めない。
けど今回の喋っている相手はそうじゃない。ナマエちゃんと喋ってる男の子は、彼女のことが好きなんだ。前に一度彼に相談されたことだってあるし、ナマエちゃんを見るあの目は完璧に獲物を狙う獣みたいな目。しかも女の子から見ればイケメンと呼ばれる類いの男の子だ。
僕とナマエちゃんが付き合ってるのは有名だし、別に隠そうとも思わない。なのに、彼女と喋りながらたまに此方を見る彼は、どこか勝ち誇ったように笑っていた。まるで、ナマエちゃんは俺が貰った、みたいな顔。ピキッと額に青筋が立ったのが分かる。ムカつく。
「ナマエちゃん、ちょっと来て。」
「ご、悟天!?」
「オイ、待てよ悟天!!」
本当に腹が立って、気付けば二人の間を割って入り驚いた表情を浮かべるナマエちゃんの手を掴んで教室を出ていた。背後から今まで彼女と楽しそうに喋ってた男子の苛立ちの隠った声が聞こえたけど、気にしない。なんだか分からないけど、凄くムシャクシャする。
屋上まで来ると、僕は力任せにナマエちゃんを壁に押さえつけた。彼女は相変わらずびっくりしたまま僕を上から下まで見る。
「悟天!ちょ、どうしたの?」
「なんで…、」
「え…?」
「なんで、あんなに笑って…アイツと喋ってたんだよ。」
僕の唇から紡がれた声は、情けなく震えていた。だってしょうがないじゃないか。泣きそうなんだから。我ながら女々しいと思うけど、抑えるだけで一苦労する。
「なに言って…」
「どうしてあんなに笑うんだよ!どうしてあんなに楽しそうなんだよ…!!」
ああ、駄目だ。視界が揺れて、頬に暖かいものが伝ったのが分かった。ポタ、落ちた涙が屋上の床にしみを作る。左胸の辺りがチクチクと鋭い針に刺されたみたいに痛い。そんな僕を見てナマエちゃんは目を見開いた。
「悟天…。」
「あんな顔…僕以外の人に見せないでよ。」
「……」
「僕だって、なんでこんなこと言ってるのか分かんない…!」
けれど、なんか悔しかった。勝ち誇ったように笑ったあの顔や、時々ナマエちゃんにボディタッチする行動。僕のなんだよ。触らないでよ。一度本当に怒りかけて超サイヤ人になりそうな時だってあった。
一体この気持ちはなんなの?
そう思ったら、心の中の質問に答えるようにナマエちゃんはこう言った。
「もしかして、焼きもち?」
「…へ?」
「焼きもちやいてくれたの?」
焼きもちって確か…嫉妬することだよね。言われてみればそうかもしれない。そう呟いたらナマエちゃんは声を上げて笑った。その笑顔はさっきの喋ってた相手に向けてたやつよりも可愛くて、ちょっぴり嬉しい。今ここにアイツが居たら思いっきり勝ち誇った笑顔を見せてやりたかったのに。
「ありがとね、悟天。」
「べ、べつに…でもさ」
「ん?」
「僕よりカッコいい子と喋らないでよ。」
小さく小さく。蚊の鳴くような声で告げたら、ナマエちゃんはふにゃりと微笑む。あ、可愛い。
「悟天よりカッコいい子なんていないよ。」
可愛いピンク色の唇が弧を描いた。その言葉と笑顔は反則だ。下を向いて緩んだ表情をキリッと引き締めてから、ナマエちゃんの背中に腕を回して抱き締める。授業開始のチャイムが鳴る直前、お互いの唇と唇がくっついた。
その可愛さは罪なのですキス100回の刑に処す!