テキスト | ナノ




こつん、こつんと靴底を鳴らしながら宇宙船で一番偉いお方がいらっしゃる部屋の前まで向かう。威圧的な扉をコンコン、二回ノックすれば、向こう側から「どうぞ」と言われた。

私は言われるがままドアの横のボタンを押して扉を開くと、部屋の中に足を進める。


地面から数センチくらいの距離を保ったまま浮かぶ椅子の上には、頬杖をついたまま鋭い目付きで私を見つめる、この星…いや、宇宙で一番素敵で強くて、素敵な方…フリーザ様が座っていた。私はこの方に恋をしてる。もう何年も前から、ずっとずっと。わたしには手の届かない存在だということは分かっているけど、心のどこかではやっぱりこの気持ちに気付いて欲しいとか、思ってたり。


そんなことを考えてたら気恥ずかしくなってしまって、私はすぐに椅子の数歩手前で片膝を着き、頭を下げる。


「フリーザ様…只今、無事帰還いたしました!」


此処に来た理由は簡単だ。フリーザ様に任された仕事を全うし、その報告書を直接届けに来た。

頭を下げたまま言うと、フリーザ様は何も言わないでただ黙っている。暫くお互いに黙っていたけれど、なんだか居心地が悪くなって、早く此処から出ていきたくなった。あ、トイレにも行きたくなってきたなあ。


「あの…では私はこれで…」

「ナマエさん。」


立ち上がろうとした瞬間、頭上から降ってきた声に思わず上擦った返事が出てしまった。わあ、マズイ。


「は、はい。」


慌ててもう一度返事をすると、顔を上げなさいと言われ、おずおずと視線をフリーザ様に向ける。ばちん、目が合った。それだけでドキリと高鳴る心臓が、ちょっぴり痛かった気もする。何を言われるのかな、なんて内心ビクビクしていたけれど、そんな私の意表を突いて彼は…




「貴女、仕事はどうしました。」

「へ?」


予想を覆す質問をしてきた。どうしたも何も…いやいや、それより返事しなきゃ。どんな問いだろうとしっかり、そしてハッキリ答えるのよ自分!


「はいっ、ザーボンさんやドドリアさん、そしてギニュー特戦隊の皆さんと一緒に、しっかり任務を遂行して参りました!!」


よし、噛まないで言えた。心の中で、ぐっと拳を握った私の視線の先に居るフリーザ様は、何故か難しそうな顔をなさる。ん?変な答え方だったかな、とか不安になると、彼が再び口を開いた。


「…質問を変えましょう。貴女は仕事中、何をしていらっしゃったのですか?」


え。

いや、仕事は星の制圧だったから、その惑星に行って、綺麗な洞窟があったからそこでお弁当食べて…あ、ドドリアさんが流れ星に向かって「イケメンになれますように」ってお願いしてたのと、ザーボンさんが鏡を片手に「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのは誰だ」とか言ってたのと、それから…


「ああ…もういいです。」


指を端っこから折って考えていると、目の前に座るフリーザ様が溜め息混じりにそう言った。そんな、まだ思い出してる途中なのに。


「制圧に行ったというのに仕事を何だと思っているんですか、貴女という人は…」

「えっ…」



うそ、全部聞こえてたなんて!フリーザ様、まさか読心術を心得ていらっしゃるのですか。頭の中で叫ぶと、まるでその言葉まで読み取ったようにこう言った。



「口に出ていましたよ。」

「わお!でもなんで、」

「ナマエさんは分かりやすすぎるんです。」

「…分かりやすい?」

「はい。表情だけで何をお考えか、手に取るように分かりますからねぇ。」


口角を吊り上げて、喉をクツクツと鳴らして笑うこの人に、不覚にもときめく恋心。ああもう、そんな目で見ながらニヒルに微笑むなんて、本当にやばい。これ以上見てたら冗談抜きで心臓が爆発してしまいそうで、見えないように視線を床へ落とす。喉が強く圧迫されて思うように声が出ない私を一瞥したフリーザ様は、すっと椅子から降りて冷たい地面に足を着けた。


トントントン、足音がすぐ近くで止まる。




「本当に、分かりやすいですよ。」




耳元で言われた言葉。

顔をあげようと思ったら、するりと伸びてきた白くて冷たいものに顎を捕まえられ、強制的に上を向かされた。さすがにびっくりした私は、何するんですか、と言おうと口を開いたけれど、…次の瞬間。


「っん…!?」


唇に柔らかい感触と、顎に当てられたものとは対称的な、暖かいものに言葉を呑み込まれた。



やっと焦点を定めた目に映ったのは、フリーザ様の顔。しかも有り得ないくらいすぐそこに。



え、なに、なんなの?これって、夢なのかな。



パニックに陥っていた私から唇を離すと、フリーザ様は楽しそうに笑いながら耳元で、小さく囁いた。



それを聞いた瞬間、わたしの顔はきっと林檎より真っ赤になっていたに違いない。








あなた、私が好きなのでしょう?

(な、なぜそれを!!?)
(いえ、ですから分かりやす…)
(まさかジースがチクったのね!!)
(あの…)