テキスト | ナノ

目を開けたら朝だった。ぱちりぱちぱち。瞼を数回上下に動かして、まだぼやける視界がデジタル時計の数字を捉える。ぱちん。最後に大きく目を見開くと目の前の景色や状況が鮮明になっていった。

「…あ、れ?」

――現在午前10時25分。
やけに狭く感じるベッドと、もうひとつ聞こえる小さな寝息。どうしてこんなに寝坊してしまったのだろうという疑問は、目を斜め右下に動かせば容易に解決した。彼女の隣で規則正しい寝息を立てるのは恋人の悟飯。ああ、なんだ悟飯か。ふう、と胸の前に手を当てて安堵の溜め息を溢すナマエは、もう一度隣で眠る愛しい寝顔に視線を落とした。いつもは真面目でキリッとしてて、でも夜は夜ですっごい男前で。そんな彼も寝てる時だけは可愛らしい表情で眠るものなんだなあ。

「ふふっ。そんな可愛い顔してると、ちゅうしちゃうよ。」

なーんて冗談を言ってしまうくらい可愛いんだから(普段の真っ黒悟飯にそんなこと言ったらただじゃ済まないんだけどね)。この表情はわたしだけのものにしたい。ナマエの心に小さな小さな独占欲が渦巻く。もしわたしと別れたら、他の女の子にこの顔見られちゃうのかな。ゆっくり伸ばした手はやがて悟飯の頬にたどり着いた――…と、その時

「へえ、朝から随分盛ってますね?」
「…!?」

ばっちり。漆黒の目と視線が交じり、ぱしっと伸ばした手が捕まえられる。ナマエが状況を判断し切れていないことをいいことに、悟飯はそのまま彼女の華奢な身体を押し倒し、その上にさも当たり前のように覆い被さった。

「ち、ちょっと悟飯!タイムタイム!」
「タイム?何がです?」
「いやいやいや何がじゃないでしょ、この体勢はなに?」
「ナマエさんがいけないんですよ、ちゅうしちゃうよなんて言うから。」
「きっ、聞こえてたの!?」
「勿論。一言一句聞き逃さず。」
「嘘でしょ……」

いつから起きていたんだと捲し立てるように聞けば、最初からですよと単調に答える悟飯。いつもなら絶対に言わないような恥ずかしい言葉をはっきりと、しかも目の前で聞かれてしまったことに羞恥が隠せない。ああ神様、わたしは明日からどう彼と接していいのでしょうか。真っ赤になった顔を見られたくなくて手で全体を覆っていたら、ふいに彼の手が腰を撫でた。

「ひゃ…!」

思わず恥ずかしい声が漏れる。そのせいでもっともっと顔に熱が集中してしまった。きっと悟飯はそれを分かっててやっているのだ。純粋そうな見掛けに合わず、相当な腹黒くんだったりする。初めて真っ黒な面を見たときは人を見掛けで判断しちゃいけないっていうことを痛感させられた。

「さて、どうしましょうか。」
「どうもこうも今日は仕事が…」
「ナマエさん、時計をよく見て下さいよ。」
「………」
「今日は何曜日ですか?」
「に、日曜日……」
「というわけです。」
「どういうわけですか。」

尋ねた瞬間、彼は舌舐めずりをした。ぺろり。