テキスト | ナノ


ぽかんとしてて、ふわふわした意識の中で私の目の前に現れたのは、とっても甘そうなピンク色をした大きなキャンディ。お、美味しそう!と思うもつかの間、それに続くようにしてチョコレート、ショートケーキ、綿飴といった順番で次々にお菓子が出現する。え、なにこれ。甘いものが大好きな甘党の私にはここが天国のように感じてならない。もしかして今までの私の苦労に対するご褒美か。だとしたら私は神様を永久に愛します、はい。手を伸ばせばすぐに届きそうなほど近くにあるお菓子たち。今私が食べてあげるからね。待っててマイスイーツ。しかし私の手はいつまでも彼らを掴むことは出来なくて。どうして?お願いだから食べさせてください。心からそう思った瞬間、誰かの声が私の名前を呼んでいた。――…この声は、


「おーい、ナマエ?」
「……ターレス、?」
「おっ。やっと起きやがったか。」


ぺちっと頬っぺたを叩かれて目を覚ます。痛いなあ。女の子に対してそういう起こし方ってどうなの。っていうか、え?私の可愛いお菓子ちゃんたちは?私の素敵なオアシスは?


「まさか…」
「お前寝てる間ずっとヨダレ垂らして寝てたぜ。色気の欠片もねェ奴、っ痛ェ!」


近くにあった雑誌の角で思いっきりターレスの頭を殴ってやった。まさか、まさか。だんだん冴えてきた頭の中で大体の収拾はついた。信じたくはないけど、どうやらさっきまで掴みたくて掴みたくて仕方なかったお菓子たちは私の夢の中だけにある造物だったようだ。要するに、今までのは全部夢。うわもう最悪。神様なんて大嫌いだ。でもそれより私にとって(夢ではあったけれど)物凄く幸せなひと時を邪魔したターレスがもっと嫌いだ。痛いじゃねえかと頭を押さえながら唸るそいつに、私は追い打ちをかけるようにクッションを投げつけてやる。


「だから痛いっつの!」
「あら、レタスにも痛点があるのね。」
「あァ?」
「私の愛するお菓子をよくも…」
「何言ってんだ。」
「死ね。とりあえず死んで詫びろ。」
「はァ?やなこった。」
「じゃあいいわ。あんたが寝てる間に睡眠剤を100錠くらい口にぶち込んでやる。」
「っは、ガムテープで塞いで寝てやる。」
「鼻にもガムテープしてやるよ。」
「つーかなんでそんなに怒ってんだよ?」
「あんたの肌が黒いから。」
「意味分かんねえし。」
「とにかく…ヨダレを垂らして寝るほど幸せに寝てる私を今後一切大した理由もなく起こさないで。」
「ヨダレ垂らすのって幸せだからなのか?」
「私の場合。」


やっぱ意味分かんねえ。肩を竦めて溜息混じりに吐き出した。そんな彼に背中を向けると私は再び布団を被って瞳を閉じる。次邪魔したら親指の爪を勢いよく引き剥がしてやる。本当に邪魔すんなよな、糞レタスが。


「……」
「……」
「……」
「……なあ。」
「……」
「なあってば。」
「だァァ!なんだっつの!起こすなって…!」
「結婚しねえ?俺達。」
「はっ、…って、え?」


おっと、耳くそ掃除するの忘れてたかしら。変な言葉が聞こえた気がしたんだけれど、気のせい?気のせいだよね。いやでも確かに結婚って言ったぞこいつ。びっくりして振り向くと、すぐ目の前にターレスの顔が広がっていて更に驚いてしまった。てかなんでこのタイミング?そう聞こうとした口も今は全く動かなくて、全然言うことを聞いてくれない。私はただ彼の黒い眼に吸い込まれるだけとなった。


「大した理由があったから起こした。」
「っだ、だからってそんな…」
「菓子と俺、どっちが好きだ?」
「菓子。」
「即答かよ。」
「……でも、ターレスと居られるなら、お菓子が無くてもいいよ。」
「…へえ、言ってくれるねェ。」
「でも別にあんたと結婚なんかっ…!!?」


してやる気はないから。私の意志とは真反対の言葉達は、ターレスの唇に塞がれて溶かされる。柔らかくて暖かいその感触が、いつまでも続けばいいのにと思った。触れるだけでゆっくり離れていった唇は、まるで三日月のように弧を描くと、意地悪な言葉を紡いで吐き出してきた。


「返事は?」


そんなの、分かってるくせに。口が悪いのは私の短所だけど、その口が吐き捨てる言葉の質が悪いのは確実にターレスだ。相手がどんなこと思ってるか分かってて、でも敢えて本心を突かないでこうして尋ねてくるんだもの。毎日一緒に居るだけでストレスが溜まっていく。そんな奴と、誰が結婚なんか。結婚なんか。


「…はい。」


ねえ神様。これは、夢じゃないよね?




りこちゃんへ捧げるターレス夢!口が悪いヒロインということでしたが、まあ見事に掠ってすらいないですね!ごめんなさい(涙)こんなんでよければ貰ってやって下さい!心と愛だけはめちゃくちゃこもってますので!!ではでは企画に参加して下さりありがとうございましたー!