テキスト | ナノ




「あ、悟空。」
「よ。久しぶりだなナマエ。」


本当に偶然だった。寒空の下、自然に速まった足で帰路についていた私と、幼馴染みの悟空とが再会したのは。何年ぶりかなあなんて笑いながら言えば、四年ぶりくれえかと答えた彼もつられて笑ってくれた。あ、四年前と変わらない。そう思わせてくれたのはこんな真冬でもなぜか胸が暖かくなるような彼の笑顔だった。もしこの世に太陽がなくなっても、悟空の笑顔が太陽の代わりになれるんじゃないかと思う。


「これから暇?」
「えっ…」
「用事でもあったか?」
「ううん!まさか!」
「じゃあ飯でも行こうぜ!」


勿論オラの奢りだからよ、と言われて仕方ないなと肩を竦め答える私は、きっと金にしか目がいかないような女に映っているのだろう。嫌だな、それ。別に奢りだから行くとかそんなわけはないのだけれど。大学を出た頃からしばらく会わないうちに悟空の雰囲気が大人びたような気がしてならない。口調は相変わらずだけど、顔つきが変わっただけでこんなにもペースが乱れる。高校生の頃なんて、私が主導権を握ってたのにこれじゃ真逆じゃんか。と思う隙にも私の手は悟空の大きな手に引かれていた。


「ちょ、ちょっと!」


反射的ではあったけど、心に動揺があったんだと思う。私は握られた手を無理矢理振り払っていた。それに吃驚したのか、悟空は振り向いて目を丸くしている。


「どうしたんだ?ナマエ。」
「悟空、あんたもう大人でしょ…!?」
「おう。それがどうした?」
「手、繋ぐのは…好きな人とだけにしなよ。」


昔っから、あんたが鈍感でそういう方面に疎いのも知ってた。だから高校生の頃も「お前まだ童貞だろ」とか「ファーストキスまだなんだろ」とか言われ放題だったのにちっとも悔しそうな顔してなかったもんね。でも、でも。ほんとにあんたのこと好きな女の子は、ちょっと恋人っぽいことされちゃうだけで期待しちゃうんだぞ。手引っ張ってくれたり、抱っこしてくれたり抱きしめてくれたり。悟空にとっては普通のことかもしれないけど、女の子はドキドキしちゃうんだから。だからーー口を開こうとした瞬間、私の手は再び暖かくて大きな手のひらに包まれた。


「ちょ、悟空!ひとの話…、」
「手ぇ繋ぐのは好きな奴と、だろ?」
「!」
「オラがこの世界で手を繋ぐ女は一人しかいねえよ。」


どきん。ああ、ずるいじゃないか。あんたを好きな女の子は…私は、好きな人のかっこいい横顔に弱いんだよ。それを知っててか、私に向けられたかれの横顔は太陽の彼じゃなくて、男の彼だった。横顔だけじゃない。言葉も、この暖かい手も、ちょっとだけ子供っぽい性格も。全てに弱いって知ってるのか、お前は。だとしたら可愛い化け皮を被った小悪魔だね。ほら行こうぜと急かすように引っ張る悟空だけれど、ちゃっかり私の歩幅に合わせて歩いてくれてる。


「私も、悟空としか手は繋がないよ。」
「ほんとか?約束だぞー。」
「うん、約束!」


彼の手から離れていた薬指をしっかりと絡めて、俗に言う恋人繋ぎというやつにしてみる。うん、こっちの方が暖かい。もう一度約束ねと呟いてから、子供の頃のように寄り添ってクリスマスカラーの街を歩いた。これから行くレストランで、私の薬指にシルバーの指輪が嵌まると知るのはあと数時間後のお話。



minami様へ捧げます!悟空と冬のデート!そしてスライディング土下座させてください!!冬まったく関係ありませんね。自分で書いてて悲しくなりました。どうか煮るなり焼くなりお好きなようになさってくださいまし…!!ではでは、参加ありがとうございました〜〜!