ネタメモ | ナノ


飛段と性悪な元カノ


たくさんの女を抱いてきたが、ここまで魅力的な女が果たしてその中にいただろうか。問われれば彼はそれに迷わず「NO」と答えるだろう。今まで相手にしてきた女の誰よりも、腕の中で眠るこの少女は飛段の心を満たしてくれた。外見が別段美しいわけでもなく、これといって秀でた才能があるわけでもない。しかし彼女は心優しく、そして他の女性には無い一つの魅力があった。

――ああ、やっぱ好きだな。

と思う瞬間が彼にはある。
そう。それは彼女が笑う時だ。

「飛段、大好き」

唇から紡がれる愛の言葉と花のように可憐なその笑顔に、青年は心を丸ごと持って行かれた。初めて魅せられた瞬間から虜になっていたのだ。

少女に出会うまでの彼といえば、手の届く女をとっかえひっかえの毎日を送り、その隣には恋人も居たがこれといって罪悪感を感じたことはなかった。当然のように恋人は激怒したが、耳元で甘く愛を囁けば機嫌を直し彼に縋って「それ」を無かったことにした。恋愛観など人それぞれだ。飛段にとっての恋愛価値はそんなもの。適当に女を見つけてお互いに体を求め合えばいいとさえ思っていた。

けれど、彼女に出会ってからは。
半年前に別れた彼女とはえらい違いだ、と飛段は自嘲的な笑みを浮かべて少女の首筋に顔を埋める。シャンプーのいい香りが鼻腔をくすぐった。耳元で微かに聞こえる寝息すら愛おしい。幸せとはこういうことを言うのだろうか、なんて相方に問えば「馬鹿げている」と鼻で笑われることだろう。きっと。このまま目を閉じて夢の中に落ちてしまおうと瞼を下ろす。すると、恐ろしいほど冷めた声色が、鼓膜の奥で鳴った。


あんたたちの幸せなんか、


声が言い終える前に、飛段は目を大きく見開き顔を上げて反射的に部屋を見渡した。しかししんと静まった空間の中に、彼ら二人以外の「人間」の気配はない。居る筈がないのだ。ここに、「あいつ」が。変な予感と吐き気を覚えるような「あいつ」の微笑が脳裏をさえぎる。少々荒れた呼吸だけが部屋の中を支配した。

「眠れないの? 飛段」
「…!」

凛と鈴のような声が鳴る。はっと我に返ると、視界の下隅で恋人が彼を見上げていた。その瞳にはかすかな不安の色が宿っている。心配しているのだろうと察しはついた。

「なんでもねぇ。起こしちまったか?」
「ううん。大丈夫だよ」

果たして何に対して大丈夫と言っているのか今の彼にはまだ分からなかった。目を丸くしている飛段の背中に腕をまわして少女は再び微笑んだ。彼が大好きな、あの笑顔で。

「大丈夫」

一緒に戦おう、彼女と。

そう聞こえた気がして、飛段は少女を強く強く抱きしめる。ありがとうという感謝の言葉を彼は素直に少女へと送った。そんな甘く優しく、あたたかい空間の端で、悪魔のように唇を吊り上げた女が、冷たい光を瞳に湛えて二人を見つめていた。

途中からわけわかんなくなったので言い訳という名の解説に入ります!今までの誰よりも好きだと思える彼女とずっと一緒にいたいなーなんて思う飛段ではありましたが、そこで性悪主人公ちゃんの憎悪が声となって邪魔をします。私の幸せを踏み台に、お前たちだけを幸せにはしない、みたいな感じで囁きかける。それは今回の話に始まった事じゃなくてもう何か月も前からっていう設定です。それに薄々気付いていた今の恋人ちゃんが、これ以上大好きな飛段を一人で苦しめたくないと思い、「大丈夫」という言葉をかけて自分もその性悪主人公と戦うことを決意します。そんな健気な恋人に胸を打たれながらもその決意に「ありがとう」と返事をして一緒に戦うことを飛段も決意して〜みたいな感じですかね、ながれ的には!そしてこの最後のオチは、ホラーとかによくある感じで実は部屋の中にその性悪さんが居ましたとさってやつです。