8 まるで子供が描いたキャンパスのようだ
 

「立場を弁えろ小童が」

続けて「うるせえババア」と銀色の神は毒付いて怒鳴り上げれば痴話喧嘩が始まってしまう。

「ウルサイねえ……心の底から不愉快だよ、本当」

その向こうで退屈そうにうさぎが首を斜めに傾げるとポキリと骨が音を立てた。

その後ろでは夕暮れの天井が日入りを告げていた。もうすぐ身を隠さなければいけない時刻らしい。

背後で喚き散らす長寿の神の肩を掴むと強引に前に押し出す。そのままつんのめるようにして彼女は全方に立っていた銀色の神の懐へぶちあたる。奇妙な奇声が聞こえたようだった。

「おい……なにす」

「もう帰っていいよ、役立たず」

彼女は振り返ると驚いた様子で俺を見て、その倒れ込んだ彼女の体を支える銀色の神の手が視界の隅で散らついて、うっとおしい。


「人間は飽き性だからなー」

そう言って正面に佇むうさぎが苦笑して、鉈を肩に乗せて腰に手を当てる。

「そうなんだよな、なんでこうなるかな」

「貴方はそれでいいんだ、全てを見て見ぬ振りしてオレ達が壊れて行くのを待っていればいい」

溜息を吐き出して、ここは混沌の世界なのだと俺は思う。クレヨンで描きなぐったような橙色の空に黄色の太陽が昇って、水色の雨が降る。これはまるで子供が描いたキャンパスのようだ。空に浮かぶ綿あめがぱちりと瞬きをした。

彼らはそれを赤い夜と呼んだ。

空に浮かぶ綿あめがぽん、と音を立てて弾け飛ぶ。真っ赤な残骸と火花がこの住宅地に降り注いで、俺の足元に落ちてきたのは渦を巻いた人の腸管だった。



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