14 その様子だと知らないみたいだね?
 

明るい朝だ。小鳥の囀りと穏やかな春の匂い。降り注ぐ太陽の日差しを浴びて目が覚める。どこまでも平凡でいつも通りの1日が始まる。
部屋を見回して、そこに誰もいないことを確認する。最近が下手に賑やかだったせいで、感覚がおかしくなってしまったのか。物足りなさを感じた自分が苛立たしい。寝呆け眼のまま、音を奏でるだけの何の感情も表さない小さな舌打ちをした。
静けさが際立った気がした。
俺は赤い夜を思い返す。あの日見た光景を、その意味を、考える。

「赤い夜ってのはさ、神サマをぶっ殺す手段の一つなわけだけど、その様子だと知らないみたいだね?」

突然現れたのは、全身に黒を纏った男だった。顔を隠すほどの長い前髪の奥で不気味に目を細めて笑う姿は、正常とは言い難いだろう。細身の体には、一冊の本が握られている。
男はぐるりと身を翻して部屋を見渡して、それから小さく「ふーん」と口を横に結んだ。

「これが皇帝サマの皇居とは、みすぼらしいにも程があるね?普通の人間の部屋だし、それにしても狭いと思わない?これだと俺の方がいいとこ住んでるんじゃないかな」

疑問も全て無に帰る。そういう風に出来ている。それにしてもこれは、どうかと思うんだ。

「用件は何んだ?」

「さよなら皇帝サマ」

取り出された銃口が俺に向けられて、考える暇も与えられずに右に飛んだ。大きな音を立てて壁にぶつかって、頭上の壁板に穴が空く。すかさず動き出す。止まったらお終いだ。体に穴を空けられたら、きっと動けない。そのまま、幾つもの弾丸を撃ち込まれて、痛みに悶えて、そして簡単に命を手放すのだ。
俺はガラスの窓を突き破って、部屋を出る。落下する。大丈夫、対した高さじゃない。けれど変な体勢で飛び降りたせいで、肩から落ちている。どうすることも出来ずにそのまま落下する。そして勢いよく硬い地面に叩かれる。すぐに割れた窓を見上げると、こちらを見下ろす影と長い銃身が向けられていた。体はまだ動かない。力が入らない。よけられない。

「ォォォッラッァァアアアアア!!!!」

横回転をかけた体が飛び込んで反動と柔軟な四肢、それから馬鹿みたい瞬発力と馬鹿力を兼ね揃えたうさぎの右脚が黒い男目掛けて繰り出されてきた。よける間も無く豪快な音を立てて、ガラスの窓を含んだ壁板ごと突き抜けた。怒鳴り声を響かせ更なる破壊音は続く。

このままだと建物ごと崩壊するんじゃないかと不安になっていると、ガラリと窓を開ける音がして、隣の無事な窓から一人身を投げて来た。




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