10 たぶんこれは罪悪感なのだろう
 

それから消え入りそうな声で「オレがどんな気持ちだったか」と吐き捨てた。俺はそっと目を逸らして、未熟児を切り捨てる自然界のルールを思い浮かべながら、記憶を書き換える。俺は何も聞こえなかったのだ。

うさぎは空へと跳躍する。鉈を振り上げ目標を定める。それは過ちなのかもしれない。善行なのかもしれない。俺にはわからなかった。ただその行く末を見守った。堕落神の混入で、抑えられていた神の手が覚醒し、偽りの神として神格化。いやこの場合、堕落化と言ったほうが正確かもしれない。内に秘めた莫大な神の手が作用し、一般の偽神と比べ物にならない力を齎したのだろう。
それは意図も簡単に左右に分断され、虚しく降下し始める。

俺の横に着地したうさぎは、刃にべっとりと付着した血を払う。うさぎは俺の視線に気付くと何食わぬ顔で言った。

「だって貴方、赤い夜は苦手だろ?だったらさっさと息の根止めて早く終わらせればいいんだよ」

その言葉と同時に空は赤から、月光が照らす黒い夜に変わった。蒸せる様な熱気と異臭は消え、空気はひんやりとして肌寒い。無人の住宅からぽつりぽつり温かな光が漏れて、戻って来たのだと安堵する。気が緩めば自然と眠気に襲われるのが定めだろう。
そもそも日中は誰かさんのお陰で散々走り回されたのだ。体が悲鳴を上げている。俺は暗い夜道を歩き出し、我が家へと向かう。とはいえ遠くはない。既に目と鼻の先だ。

後ろでは何を考えているのかちゃっかりうさぎが一匹、鼻歌まじりでついて来ている。おかしいなとおれは思った。けれど何も言わないでおいた。先程うさぎが見せた表情が頭から離れない。たぶんこれは罪悪感なのだろう。

「なんなんだろうな、さっきの」

存在を認識していることを遠回しに伝えてみる。伝わったかどうかは分からないけど。

「さあ?」

さっきの、とは言うまでもなく赤い夜のことで、うさぎはまるで興味がなさそうで、その返答には分かりやすいぐらいの適当さが滲み出ていた。




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