9 だてにうさぎなんてやってねーよ
 

空を見上げたうさぎは、「あーらら」と関心の無さそうに呟いた。こんなことはこの世界では日常茶飯事ではあるものの、未だ慣れる気がしない。きっと一生慣れることはないのだと思う。それ程までに、赤く黒い。一瞬にして立ち込める異臭に顔を顰めて、ふと思い立った疑問をうさぎに尋ねる。

「てか、お前神ってどういう事」
「なにを今更。そのまんまの意味だろ、もとは神だったんだよオレ」
「じゃあなんでうさぎなんてやってたわけ」
「いろいろとな」
「じゃあ結局お前そのザマだけど、今どんな心境なの」
「しくったわ、本当あり得なさ過ぎて笑えない」

そう言って、うさぎは乾いた声と共に口を横に歪めた。
神達は姿はない。赤い夜に彼らは干渉しないのだ。それが当たり前のようにして姿を消す。俺とうさぎだけ、血の雨に打たれている。

「神のクセに、帰れないとか神として威厳丸潰れだな」
「何も知らないより、マシだぜ?」
「なにそれ、なんか知ってんのお前」
「伊達にうさぎなんてやってねーよっと」

再び降り落ちて来た臓腑をうさぎは軽やかに避ける。それは地面に叩きつけられて平たく潰れた。覆いが破れ中身が飛び出し、地面を汚す。返り血が飛散して、少しだけ服にかかってしまった。皮肉にも超越した運動能力を持ったうさぎは意図も涼しい顔でこれを避けた。

外なんかで無ければ良かった、と俺は思う。そうすれば服が汚れることも、惨劇も見なくて済んだ。部屋に篭ってしまえば知らない振りが出来る。
大気が揺れて生温かい湿った空気が体を撫でた。一つ命が潰えるまで、この赤い夜は終わらない。

「てか貴方ちゃんとオレの保護者の自覚持てよな」

鉈を空へと構えながら、此方は見ずに呟いた。

「……は?」
「無自覚な冷酷野郎だよな本当」



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