私の頭部を奪ったのは紛れもなく兄様だった
会話と呼べるものもなかった
特別親しいわけではなかったから当たり前なのだろう
兄様は私を見た瞬間、汚物を見るような侮蔑と軽蔑の冷たい視線を向けた
変わらないんだなと思っただけだ

「会いたかったよ」
それと同時に、鈍い痛みが腹部に襲った
胃酸が逆流して吐き出され、視界が真っ白に変わる
嫌悪剥き出しの暴力、疑いようのない殺意
全てが私に向けられる
受け止めるしかない

「何、笑ってんの」

雛鳥は生まれて初めて見たものを親と認識する
それと同じだ
刷り込まれてしまっている
それでも私は兄様を憎めない

ガラスの向こうで影が揺れた
私は、透明な水槽の中にいる
この場所を私は知っている

「そんな姿になっても意識があるなんて、化け物だな」
それは私が被験体だからで

「どうせ無抵抗に好き勝手やらせてたんだろう、自業自得だ」
そうしなければ殺されてしまっていたからで

「非力で無力だと泣き喚きながら死ねば良かった」

震えた声は泡となって消えた
声は水中を上昇して瞬く間に溶けて無くなる届かない
白い電灯の光が水槽の中で反射して輝いていた
まるで魚になった気分だった
生け捕りに飼育された食われるのを待つだけの餌
見せ物みたいに兄様の後ろで此方を見ている幾つもの両目が不快で堪らなかった
もう見ないで欲しい
こんな体はいらなかった、こんなことなら死んでしまった方が良かった、そんな事を思ってしまう

無力な少女は彼の名前を呼んだ
浮かぶ姿は哀愁めいた表情をしていて、助けを求めるにはきっと脆く弱い
彼は探しているのだろうか、憐れな体だけを残して消えた私を

prev next
[back]

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -