それから一週間が過ぎて、かなり順調な生活をしていけていると思う
彼女の体温はほんのりと温かみを帯びて来ているし、立ち上がってある程度歩き回れるぐらいにはなってきている
先日は彼女に黒色のウサギの被り物を買ってきて被せてあげたら静かにお辞儀をされたし、それからずっと被ってくれているみたいだから気に入って貰えたんだと思う
彼女がユラユラと耳を揺らしながら歩く姿にはなんとも考え深い気持ちにさせられてしまう
そんな円満で充実した生活をしている

そんなわけないだろ
なにこの健気な少女は
なにこの弱々しい少女は
だって彼女はお辞儀なんてしない
照れたような仕草なんてしない
コミュニケーションは紙に文字を書いて行われ、結果
彼女に記憶は残されていなかった
記憶メモリは全て頭部が有して、書き込まれた記録と共に彼女自身の意識ごと奪われてしまった
彼女ではない彼女が黒いウサギが私の傍へよたよたと駆け寄って来る
感覚を失った分、気配を敏感に感じ取る事が出来るようだった

「なに、どうした」

勿論話したところで聞き取る聴覚は無い
その弱々しい体に触れた
力強さは皆無だ、彼女なのに経験はそこまで人を変えてしまう
私をしらない彼女は彼女のしらない私で傷のないまっさらな心が唯一の救いだった
傷は彼女を生み出したけどそれが正しいはずがない、傷はない方がいい
それは両者を繋ぐ架け橋だったかもしれないけれど、それはただの傷の舐め合いで
何も生まれない
気が付くと瞼の裏から眩しい白い光
鼻につく薬品の臭い
ギリギリと音がする、体が動かない
固いベッドのような場所に横になり目隠しと手足を固定
そしてねっとりとした指先が私の頬を触れた
気持ちの悪い声

「懐かしいね、ミチル」

「ひっ」

声にならない叫びが喉を裂いた

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