長い石階段を上った先にある色褪せた鳥居を抜けて、玄関に立つ。鍵は開けっ放しで、相変わらず不用心な屋敷だなと思う。廊下の奥は薄暗く、人の気配は感じられない。わざわざ届けに来たのに、出迎えもないのかよと、腹を立たせながら、その反面は何も感じてない。掴んでいた髪を振り上げてその先の頭を投げ飛ばす。着地の衝突と同時に小さな声を上げるだけだった。
「そこで、主人の帰りでもまってることだな」
背を向けて、来た道を帰る。そのつもりだった。俺の仕事はこれで終わった。もう彼奴といる必要はない。それなのに後ろに何かいる。人の気配はなかった筈だ。邪魔をするなよと喉元で飲み込んだ。
ミフが先に姿を捉えて、驚くような声を発する。間抜けな声だと思いながら、シズカも振り返った。

黒いうさぎだ。黒いうさぎの被り物を被っている。シズカはそれを右手で払い捨て、意図も簡単にうさぎの頭が転がった。思った通りだった。

「ほら、お前の体を見つけたぞ」

頭部が無く、それは佇んでいる。
その体を知っている。
俺が傷付け痛め付けた体。
白く脆い体。
俺が犯した体。
迷路の実験の成れの果てだ。
本当に、自業自得だと思う。

足蹴りにして、地面に侍らせその背中を踏みつけた。

「っ……」

ミフが顔を歪めた。まだ、痛みを共有している。強く、踏み付けた。体が立ち上がろうとする。向けられた臀部を蹴り上げた。
こいつと関わると自分をコントロール出来なくなる。不愉快極まりないなくて、矛先を向ける。
どうして死なないんだ。
どうして殺されてくれないんだ。
どうして俺の前に現れるんだ。
もう二度と見たくもないのに、存在することがこんなにも不快だ。
はやく、消えてしまえばいいのに。
死ねばいいのに。
お前が死なないから、俺は救われない。
お前だって救われない。



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