一番奥の襖を開くと彼女の好きな牡丹の花が散っている
赤く色付いている牡丹の花
彼女の赤い牡丹の花
彼女の周りを囲むように散っている
彼女の着物は乱れて畳の上で大きく広がってその間から白い足が露になっている
冷たいだろうな、きっと死体のように冷たいんだ
ただ立ち竦んでいる、君しかいないのに君だけなのに、こんなことをするなんて
まだ私を追い詰めるんだ
もうそろそろ解放してくれたっていいじゃないか
震えが止まらなくて、呼吸がおかしい
上手く息が出来ないよ
頭の中で大人の頭が吹き飛ぶ
私が撃って私の頭が吹き飛ぶ
一層その通りにして欲しい
だけど私は一人しかいないから、撃ってくれる私がいない
だから私の頭は吹き飛ばない、吹き飛べない
彼女の漆黒の布地に金と赤の花弁が刺繍された着物に触れる
そっと彼女の足を隠した
頭の中で微笑む彼女がいる、幻影だ
だってこれじゃあ彼女は生きられない
いくら彼女でもきっと無理だ、不可能だ
真っ白なその手を掴んであまりの冷たさに自然と鳥肌が立つ
おかしいよ、こんなの
彼女はそっと私の手を握り返した
だから私はその体を抱き上げ強く抱き締めた、あれ

驚きよりも先に大きな安堵で包まれて
その手を再び強く握り返した
不覚だったのだ
きっと彼女は無表情で私を見ている
そして何泣いてるんだよ、私は死なないよと得意気に言い捨てるのだ
だけどやはり彼女は何も言わない
ハハッと自分の乾いた笑い声が自分の胸に突き刺さる
当たり前だ
この姿を生きていると断言していいのか分からないけれど、
この手はしっかりと握られているから
私はその体を抱き締めたまま絶対に離したくなかったんだ
子供みたいに泣きじゃくる私を宥めるように、彼女は私の頭を撫でた
冷たい手だった
それは優しさと、いつか消えて無くなる儚さを含んで
これはいつまで続くの
本当はもうすぐ死んでしまうじゃないの
なんて、笑えない
私は彼女の首筋に、口付けをした


この日、彼女は頭部を失った

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