体を起こし痣のできた手首をゆっくりと回しながら、まだ固定されたままの足の器具が外れるのを待つ
手際よく器具を外していくシクラの姿を見下ろしながら、辺り一面にはずらりと埃を被った医療機材が並んでいた
もう何十年も放置されていたような有り様だ
真上の照明はひび割れ仄かに照らす
よく見ればあちらこちらに弾痕のような傷が残っているのが見えた
ぞわぞわと悪寒がして自分の両腕を抱き締めた

「ねえ、此処は何なの。嫌な感じがする」

知らない場所であるのに間違いないのに、この場所に違和感がある
そんな曖昧な感覚
全ての器具を外し終えるとシクラは顔を上げた

「ここは迷路が過去に廃棄した元施設」

ミチルは手術台らしきベッドから降りると素足に触れたタイルが冷たかった

「そうだね、部屋を移ろうか」

そういって扉の方へ歩いていく
重厚な銀色の扉の鍵を開け、早く出るよう促した

部屋の外に出ると暗い洞窟のような通路が続いていた
黴の臭いと、どんよりと湿った空気が肌にまとわりつく
シクラが何処からか取り出した懐中電灯で照らし、その少し奥にまた扉があるのが見えた「昔はもっと酷かったんだ。設備も整ってなくて、不衛生で、暑くなると虫が大量に湧いて、とにかく汚くて最悪」

「シクラはいつから迷路で働いてたの」

「十年ぐらい前かな、中々面白かったよ」

そういって笑った

何が面白かったのかと聞くか迷って、結局声は口に出すことなく消えた
おそらくそれは必然的なことで、考えるまでもない事実でしかないのだ
ヂクリと胸が痛んだ

程無くして錆びて黒ずんだ扉が現れる
鍵は掛けられていないようだった
扉の先は先程とは打って変わり明るい光景が広がり眩しさに目を細める
慣れるまでに時間が掛かった

白い電球が照らすのはコンクリート剥き出しの無機質な部屋
けれどそこはまだ二つの扉と一本の道が続いているようで部屋と言うよりも少し広めの廊下の一角という印象を受ける
壁際には錆びたパイプベッドと木製の本棚、床に小さな白い冷蔵庫が置かれて、窓は破れで原型を留めていない灰色のカーテンで閉めきられている
そんな廃墟のような見た目とは裏腹、埃や黴臭さはまるでなく妙に生活感があった

「何もない部屋だけど、精一杯もてなすよ」

微笑を浮かべたシクラが片手を腹部に寄せてもう一方の手で部屋に向けながら畏まるように頭を下げた

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