「ごめん、私生きてる」
「え?」

不自然な声を聞いて反射的に目を開ける。隣に倒れていた彼女へ振り返り、何故か目が合った。

「……なにそれ」
「実を言うと、私はプログラムの被験体だったから体の機能がまともじゃない」
「……死んでた気がするんだけど」
「回復に時間が掛かるから今まではちゃんと死んでたと思う」

たまらず盛大に笑った。それでも横になった彼女の表情は真顔のままだったので、相変わらず表情の乏しいやつだなと彼女の頬をつねってやった。

「痛覚はある」
「頼もしいな、本当」

自分と比べて遥かに小柄な少女は想像以上に頼もしかった。トクリと心臓が大きく鳴る。興奮しているのが分かった。

「ねえ、質問の答えだけど」
「聞こえてた」
「悪趣味だよ」
「ねえ聞いてもいい」
「なに?」

一拍置いて彼女はやはり表情を変えずに淡々と聞く。

「どうして、"私"って使うの」
「気になる?」
「いや不自然だと思っただけ」
「そんな風に聞こえてるんだ」
「立ち振舞いに品はないし寧ろがさつに見える、とてもじゃないけど女性を意識しているようには見えない」
「意識はしたことすらないな、半強制的な感じ」
「習慣というやつ」
「そう、それだ」

それ以上の詮索はなかった。まだ幼いくしてそれがお互いのためだと分かっているのだろう。少女はじっと私を見つめてきた。

「もう少しで歩けるけど、これからどうする」
「考えてない」
「責任は取って貰う」
「それはもちろんだ、うん分かったとりあえず日が上がるまでこのままで」

その時、突然真っ白な光に照らされて目を瞑った。ブレーキ音が静寂を破り捨てた。

「貴方たち、なにしてるの?」

声と共に光が消えて、運転席の窓ガラスが音を立てて開けられると一人の女性の姿が見えた。肩まで伸びた癖のある栗色の髪が揺れる。

「寝てました」
「こんなところで?」
「ひょっとしたら誰かに轢いて貰えるんじゃないかっていう淡い期待を込めて」
「轢いて貰えた?」
「残念なことに会話の真っ最中です」

身なりも綺麗でまだ十分若いと言える年であるのだろうがぼさぼさの髪と顔色の悪さで少し更けて見えた。少女は私の後ろに身を潜めようにして背中の服を握りしめる。あまり知らない人間と接するのは得意でないのかもしれない。背中に回してその手を取り、支えるようにして一緒に立ち上がった。いつまでも車の真正面にいるわけにもいかないだろう。



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