迷路から無事出る事が出来た少女が帰る家がないのだと負傷した腹部を押さえながら答えた。此処へ両親に捨てられた、此処で皆と死ななければならなかった、何故助けたのだと、私を静かに見据えて訴えかけたのだ。
それは悪いことをしたなと心に響いて目を伏せた。あの時確かに助けを求められたと思ったのだけど、どうやらとんだ思い違いだった様で、悪いことをしたなともう一度心が痛くなる。そういえば私も撃たれてたっけ。
目の前の彼女は痛みに顔を歪ませて、それでも依然とした態度で此方を睨んでいる。目を合わせることが出来ずに反らしたままわるかったよと謝罪すると、許さないよと弱々しく息を吐いて、そして彼女は膝から崩れるように力なく倒れた。

山沿いに舗装された道路は比較的新しく灰色をしている。倒れ込んだところで服が汚れることはないだろうと、要らぬ心配をした。コンクリートが赤黒く塗り潰されていく様子を見つめていた。汚れるのは道路の方だった。
いやだなあと愚痴を溢したくなる。私はただ、気の狂った連中に襲われていた彼女を此処まで連れて逃げてきただけじゃないか。これではまるで私が殺したみたいだ。
彼女はうつ伏せに倒れたまま、目だけを虚ろげに此方へ向ける。なんでこいつこんなにも死にそうなんだろう。耳を塞いだ。掠れた声だった。

「彼処は、子供しか入れない約束事がある。だから大人は一人もいない筈だ。なのに彼処で私を助けたのはどうしてだろうか、大人の姿をしているんだ」

違和感が耳についた。眉を潜めて聞き返し、返事はなかった。彼女に近寄って触れてみるとまるでコンクリートみたいに冷たくて、首筋に触れてもピクリとも動かない。何のために連れてきたと思っているんだ、私を一人にするなよと、その場に膝を抱えて独り毒吐いた。
帰る場所がないことに気付いて、彼女も同じことを言っていたなと思い出す。彼処から出てくる時に持ってきた拳銃を取り出した。まだ弾は残っている。

この年まで彼処で生きていられるのもまた珍しいのかもしれない。毎日悲鳴が聞こえるばかりの広場は子供の血肉で塗れていた。私の父様は特殊な方だったのだと思う。人当たりは良くとても優しかった父様を嫌う者はいなかっただろう。運良く当たりくじを引いたようなものだ。それでも皮肉なことに父様が異常者には変わりはなかった。思い返せば父様が大人を撃ち殺している姿を視たことがある。それはつまり父様にとってそれが価値のないものになってしまったからだ。父様は小さな少年しか愛さなかった。分かっていたつもりだった。だけど分かってなかったみたいで、結局は彼女に言われるまで気付かなかった。私は父様にとって価値のないものになってしまったのだ。

「そうだね、子供の私がいつの間にか大人なっていたみたいだよ」

倒れている彼女が視界に入って、突然酷い吐き気と嗚咽に見舞われた。ゆっくりと体を横にして、コンクリートの冷たさが堪らなく心地良い。そのまま目を閉じて、拳銃をこめかみに合わせる。初めからこうしていれば良かったんだと、満足した。

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