兄様は水槽に触れて、私に言った
「あの人はお前の脳内情報だけ抽出して後は棄てる気だぞ」
あの人は、施設員であり私をこんな体にした研究者だ
私は彼を先生と呼んでいた
白髪の薄い頭と顎には白髭を生やして施設員という印象とは裏腹、優しく温厚な人だった
唯一の話し相手で一緒に遊んでくれたりもして、髪を撫でるふっくらとした手のひらが心地よかった
だからと言って好いていた訳ではない
結局は体を弄くり回した人間だ
ある程度予想はしていたから驚きはしなかった

兄様は煙草を加えながら此方を見ている
私は分からなかった
兄様の私への嫌悪感は本物だ
怖くないと言ったら嘘になる
油断はしてはいけない
躊躇いなく殺しに掛かってくる
現に身を持って体験もした
絶対にそれを間違ってはいけない
分かっている、のに
それでもたまに勘違いしそうになるのだ

「兄様、助けて下さい」

間違ってはならない
兄様は助けを求める人物とは天と地ほどの差があって
それなのに私は一体何を言っているのだろう
兄様は私の口の動きを見ている
表情は変わらなかった
いつも通り冷めた目で私を見る
煙草を口から離して、ゆっくりと煙を吐き出した
その瞬間、悪寒がした

持っていた煙草を床に落として踏みつけた
その煙草が、昔同じように兄様に踏みつけられた子猫と重なって見えた

「なにそれ、面白そう」

気味の悪い笑顔を浮かべて、兄様はそう言った

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